サラの鍵


1942年のパリ。10歳の少女サラ(メリュジーヌ・マヤンス)は警官に連行される前に、「すぐに帰るから」と約束して弟のミシェルを納戸に隠して鍵をかけた。
しかし、それはフランス警察が1万3千人のユダヤ人を屋内競輪場(ヴェルデイヴ)に収容した一斉検挙だった…

一方2009年、フランス人と結婚しパリに暮らすアメリカ人ジャーナリストのジュリア(クリスティン・スコット・トーマス)はヴェルディヴ事件の取材を通じ、夫の家族の秘められた過去を知る事になる。
そしてジュリアはサラの足跡を追いかけて更なる真実へとたどり着く…




観賞日

2012年1月13日





【75点】








「サラの鍵」は、ニューヨークタイムズでベストセラーリストに64週も入ったフランスの同名ベストセラー小説を映画化したもので、実際の”ヴェルディヴ事件”をベースとした小説。
このヴェルディヴ事件は、第二次世界大戦のさなかの1942年に、フランス警察が屋内競輪場にユダヤ人を連行し、収容場へと移送したものである。1995年にシラク大統領がかつてフランスが迫害に加担したと、この事件の事実とともに発表し衝撃を与えた。




この物語はフィクションではあるが、綿密なリサーチに基づいているらしく、当時の凄惨な状況がひしひしと伝わってきた。
移民問題ユダヤ人に不信感を抱いていたフランスが進んで協力してしまった、という事実も克明に表現されている。

ナチスのせいだから、というスタンスではなく自分の国の汚点としてしっかり受け止めているだけに、この作品の映画化はかなり意味があったのだと思われる。罪に向き合っているのだから。














この映画、見ていて飽きることがなかった。
(隣にいたおじさんはイビキかいてやがったけど…)

ともすればこういった重いテーマでは眠気を誘われることも多いが、それは大きく2点の特徴から飽きることがなかったといえる。







まず1点目、この映画は、いわゆる「シンドラーのリスト」のような伝記的な描かれ方がなされるのではなく、サラにフォーカスをあてて物語が繰り広げられる。劇中で専門家が述べていたが、被害者を数値的にではなく1人の個人としてとらえているから、こちらの感情移入もしやすくなっている。

個人として見ることにより、視点の「近さ」が生まれてサラたちをより身近に感じることが出来る。


サラ役のメリュジーヌ・マヤンスは圧巻だった。というか目力の強さ半端ない。
すさまじい現実にさらされた無垢な少女は、こうなってしまうのかと衝撃を受ける。


もちろん、『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー主演女優賞にノミネートされたクリスティン・スコット・トーマスも現代で様々なことに苦悩する女性ジュリアを熱演。

















この映画のストーリーが、ロジカルな面白さがある物語になっているのが飽きない2点目としてあげられる。

劇中では1942年と2009年をとにかくいったりきたりするのだが、過去と現代それぞれの物語がうまく共通点を持ちながら場面展開することによって違和感も感じない。過去と現在をいったりきたりする映画は、ともすれば乱雑な映画となりとんでもなくいらいらする作品に仕上がってしまう恐れもある。

それをうまく乗り切って、シンプルなストーリーながらも深みのある作品に仕上がった。





そしてこの展開の巧さから、サラの時代と現代のジュリアが繋がっていることが浮き彫りになる。

それは「過去の悲劇」は単なる歴史の教科書の事項などではなく、時の流れの中で繋がってきたのだと私たちに実感させてくれる。
かつて「鋼の錬金術師」アニメ第1期ラスト近く48話「さようなら」でも、「おれたちに関係のない戦争なんてないんだ」というセリフがあったがまさにその通り。

しかし現代と過去の悲劇が繋がっていることは決して悲観すべきことだけではない。

この映画のラストまでたどり着いたとき、きっとそう思えるだろう。











真実を知るには覚悟が必要。凄惨な悲劇につながっていた真実ならなおさらだ。

真実を知った人々の苦悩やその後の展開もこの映画の興味深いところ。普通の映画だと直接的に当時の様子を描くのみで終わってしまうことが多いため、”今後”を生きている我々にとっては非常に刺激になる映画だと思う。










予告編はこちら↓
http://www.youtube.com/watch?v=-iHFcWt7JBI