1928年、日本占領下の朝鮮半島。
憲兵司令官を祖父に持つ長谷川辰雄(オダギリジョー)と使用人一家の息子キム・ジュンシク(チャン・ドンゴン)。
2人は出会った時からかけっこで対決し、そしてライバルとしてオリンピックを目指す仲にもなった。しかし次期オリンピックの選考会で事件が勃発する。結果としてジュンシクは日本軍へと徴兵され、やがて辰雄と上官と部下という関係として再開を果たすことになる。そこから始まる2人の道のりは長く険しいものだった…
観賞日
2012年1月25日
【70点】
戦時中の中で日本人と韓国人の友情を描こうとした映画は、やたらと叩かれている映画になってしまった。
まず、邦題が誤解のもとだったのだろう。
この映画は、1枚の写真(とそのドキュメンタリー)からのインスピレーションを得て作った映画であり、事実ではない。
「12000キロの真実」は、シンプルな題が多い韓国映画からしたらなんだか仰々しいし、チープにも思えてしまう。
また配給会社が”やらかした”と言わざるを得ない。
そのため一般のレビューでは、「こんなものは真実ではない」と憤慨するようなレビューが散見されたがそれは調べ不足。
(まあそもそも配給の宣伝が、真実!みたいな押し方をしていたからだと思うが)
ほとんどフィクションです。
そして日本兵の描写があまりにも鬼畜すぎるという意見も、もはや旧態依然としたテンプレート的な意見で辟易してくる。
日本側のレビューでは、「酷すぎる反日映画」だと罵られ、韓国側のレビューでは、「親日」甚だしい映画だと罵られている。
ちょっと待て。それはおかしくないか。どっちの国の人間も全く真逆の事を述べているわけだ。
その意味でこの映画は大きな失敗を犯してしまったことになる。
最終的にどちらの国の人間にも理解されなかった悲劇的な結果につながったからだ。
そもそも韓国の映画なんだから、日本人が悪く描かれやすいことは周知の事実だろう。
でもそのギャップとして2人の友情があったはずだ。
「ブラザーフッド」など戦争映画を撮った経歴もあり、今回はわざわざ「プライベートライアン」のチームに戦車の製作を依頼するなど、戦闘シーンの迫力はものすごいものがある。
爆発などの規模は日本映画には出来ないリアル。製作費25億でもここまでのガツンとした映像の大作を作れるのだから羨ましい。
ノモウハンでの戦闘やノルマンディー上陸作戦など、多種多様なテイストの戦闘を味わえるのも魅力。
ノモウハンでは非常に粗暴で無駄に近い戦い方で、ノルマンディーは退避するかになっているという変化も面白い。
(時代考証に難があり、実際にはそこには戦闘機がなかった筈なのにあったりとしたのは残念だが)
ストーリー自体は、面白くないことはない。
むしろ2人の人間による、韓国→フランスまでの移動+先々で戦闘に巻き込まれるというワンアイディアだけで、ここまでやれたのは凄いと感じる。なぜならこのアイディアは、実にマンガ的・ゲーム的だから。
2時間半程度という制約のある映画でこれをやるのには、大きな問題がある。人物の描写だ。
どうしてもひとつひとつのエピソードを掘り下げることが出来ず、浅い印象を抱かれかねないから。
その点、作者の意向で尺を長短できるマンガ、自分自身の手で、進度で物語を進めていくゲームならばこの手のアイディアは存分に生かされる。戦いの舞台が次々と変化していくこともゲーム的な面白さがある。
しかしそのゲーム的面白さとは裏腹に、「2人の友情もので感動する」という側面は感じにくい。
国籍ではなく人間として、競技のライバルとして認め合うという点にこの作品のテーマの重点がおかれている。
それだけに感動要素が弱いというのは致命的だったか。
だが役者の演技は素晴らしい。
オダギリジョーは狂気満ちた目から、苦悩、純粋なまなざしまで見事に演じきっている。
チャンドンゴンは、ひたすらマラソンに真っ直ぐ向き合うというマンガ的なキャラクター設定ながら「変わらない」人間を演じた。
山本太郎のいや〜な日本人や戦争によって精神が翻弄されるキム・イングォンも好演。
しかもこの映画は、韓国〜フランスまで舞台が移動するだけに、様々な言語が入り乱れる。
(序盤は主に日本語だから、親日映画とみなされた?)
オダギリジョーもしっかりドイツ語やロシア語を操っていた。しかし私自身がわからないので、できてそうな雰囲気だけわかった(笑)
2人の友情を、2人の人間の心理変化を丁寧に描くことが出来ていたならもっと違った結果になっていたのかもしれない。
ともかく、どっちの国の人間もいくらなんでも過敏すぎる。
そんなに言うんなら「正解」を明記してから叩いてください。
だから論争がなくならないんだと、両国のレビューをチラチラ見て感じました。
テーマ性にすら反感を抱く韓国側のレビューからは、1人1人が認め合うことすらも許さないのかという空気を感じ、
日本側のレビューからは「ハイハイ、韓流押しね」みたいな流行りの韓流叩きの空気。
鋼錬からの引用ですが、過去の罪・「理不尽は許してはいけない」、でも「赦しは必要」だと思います。