ものすごくうるさくて、ありえないほど近い


大好きな父(トム・ハンクス)を9.11同時多発テロで失った少年・オスカー(トーマス・ホーン
オスカーは父の死を受け入れられず、傷ついた心を抱えて一人悩んでいた。
ある日彼は、父が残した1本の鍵とブラックと書かれたメモを見つける。
鍵に合う鍵穴と“ブラックさん”を探してオスカーはニューヨークの街へ繰り出すのだが…


観賞日

2012年2月22日




【85点】







今年最初の秀作に巡り合えた。


9.11で父を失った少年という繊細なテーマの作品。
監督は、『リトル・ダンサー』、『めぐりあう時間たち』、『愛を読む人』のスティーブン・ダルドリー。


大筋は予測できるストーリーながらも、細かな描写や演技、ラストの綺麗さなど作品としての完成度が高い。
120分間があっという間に過ぎ去ることうけあいの快作だ。













主役のトーマス・ホーンは映画初出演ながら圧巻の演技力。
眼力すげぇっす。



この映画、さらに脇を支える大人のキャスト陣が良い。
オスカーの両親には、言わずと知れたトム・ハンクスサンドラ・ブロック
謎の間借り人の老人にマックス・フォン・シドー(『ペレ』、『エクソシスト』など多数)などなど…



全編に渡って目線が主役の少年・オスカーため、大人たちの思いや過去については語られないのだが、それを醸し出す演技。
そして子どもからの見え方を意識した演技。どちらも素晴らしい。
主役のトーマス・ホーンだけの演技力だけではなく、周囲の環境作りがあったからこそ、
この映画が少年目線としてきちんと成立している。























音響の生かし方にも特徴があった。


911のショックで軽度な自閉症のようなもの(PTSD )を発症してしまったように思われる、
主人公の精神的な揺らぎを描くために、映画館の音響を効果的に生かしている。



事件以降、全てのきしみや交通機関の音が大きく聴こえて、耳を塞ぎたくなるほどになっているのを映画館の立体的な音響で表現。頭の中でガンガン音が洪水とかす様がわかる。
主人公の以上とも言える超説明口調も圧巻。演じた彼も彼だが、セリフはまるで高速ラップのよう。だがだからこそ彼の抱える心の痛みがより鮮明に伝わってくるのだ。

















タイトルの「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」から、
ひとつは上記でも述べた自閉症の症状であることが読み取れるが、
まだ9.11という日がアメリカ人にとって”そう”なのだとも読み取れる。


あの日は音として、未だに近いところに残り続けている。
テロは遠い場所の出来事ではなく、どこかで起きうるものという”近さ”を帯びた。


3.11が、今後数年以内に起きうるかもしれないという意識・危機感を起こさせるものとしてあり続けるのと同様だ。
もちろん、津波被害や原発問題が私たちにとって遠い問題ではなくなったことも”近さ”。
























個人的に感じたのは、ある意味「鋼の錬金術師」と同じ構図だ。




知識はあるが、頭でっかちに陥っている少年が他人との出逢いを通して、喪失に対して答えを見つけていく。

ある種漫画的な主人公のキャラクターライティング。

評論家先生方に受け入れられなかったのはそこにありそうだ。
だがこれは日常がもはや非日常と隣り合わせなのだという現代の構図そのものを表しているのだからしょうがない。




9.11と同様に3,11を経験し、今後大震災が起きる可能性が高いと言われる私たちにはひどく身近だ。

9.11を加害者被害者の目線ではなく、その後、で描くのも大きな特徴だ。
そこには事件自体への正義や道徳についてのテーマではなく、”もう戻ってこない”喪失がテーマになる。

その事件で失ったひと、他のなにかで失ったひと、それは人それぞれではあるが、人は失うことなしに生きてはいけない。

失うことがひどく合理的でないことに主人公は納得できない。
とくに主人公は科学・化学について多くを父から学んだからだ。







故にに主人公はなんとかして父を、父の幻影を繋ぎ止めようと捜索をはじめる。
そこは母の喪失をなんとかしようとした、ハガレンの最初の契機にも似ている。

ラストシーンの主人公がどこかハガレンのラストのエドと重なって見えるのもあながち間違いではないだろう。
痛みを知り、乗り越えるという普遍を描く必見の快作だ。





















多くの作品に触れ、すでに人生とはなんたるかを理解している緒評論家先生方にはこの映画は下らないのかもしれないが、きっとここにヒントをもらえる人間がきっといるはずだ。私もこの子ほど早く見付けられたわけではないが、ようやく8年かけて区切りをつけれただけに8年前のあの気持ちを思い出せた。


今回は少しプライベート過ぎる評論ですいません…
しかし、こういう感慨がおこるのも今作の良さなのだとも言える。
人の心の奥の琴線に触れ、感情を刺激する…それは名作のかたちのひとつでもあるのだから。












予告編はこちら↓
http://www.youtube.com/watch?v=MnUdMmm3JKw