戦火の馬

イギリスの農村に住むアルバートジェレミー・アーヴァイン)は、馬のジョーイをひょんなことから農耕馬として調教するようになる。
彼らの間には固い絆が生まれていくが、第一次世界大戦が勃発。ジョーイは軍馬として最前線へと送られる。

馬を愛する将校やフランスの田園に住む少女など様々な人々との出会いと別れを繰り返しながら、ジョーイは数奇な運命をたどっていく…




観賞日

2012年3月9日






【80点】









これまで数々の大作・傑作映画を作り上げてきた巨匠スティーヴン・スピルバーグの最新作は、ズバリ「馬」を題材にした映画。









私自身、この映画の予告編が流れた時点ですでに「やられた!」と思ってしまった。


なぜならこれまで数々の戦争映画はあれど、基本的には人間が主人公の視点の映画しかなかった。

だがそれでは必ず主人公の立場に対して、敵対する国の人間が生まれる。
主人公が戦っている国が賛美されるような描写にもなりかねない。




その欠点を解消していたのが、クリント・イーストウッドの『父親たちの星条旗』・『硫黄島からの手紙』の二部作だったと思われる。
硫黄島を主眼として、アメリカ軍・日本軍両方の視点から描き、戦場に残るのは「勝者」ではなく「生き残った」人間だけなのだと強く実感させられた。



















だがこの映画は馬を主役とすることで、人間を主役をすることの欠点を軽々超えることのできるポテンシャルを有する。




馬は人間の勝手な都合に巻き込まれる、という構図が自然と出来上がるからだ。


さらに言えば、犬や馬などの動物に対して人間は、人種を超えた可愛がる傾向がある。
つまりは物言わぬ彼らであっても感情移入がしやすいわけだ。
(だから日本ではこぞって犬が主役の「お涙頂戴」映画が流行ったわけだが…)


そしてこの映画は事前に感じていたポテンシャルに見合った映画だった。












戦争の描写があるにも関わらず、馬が主役であることによって安心感のある映画になっている。
(近年のスピルバーグは、『プライベートライアン』や『ミュンヘン』など容赦ない描写を持っている作品も多かった。)



初期のスティーブン・スピルバーグらしいというかなんというか、全ての要素が優等生な王道映画。
様々な人々との出会いが中心なだけに、エピソードが多く展開が早いが、全てに温かみがある。


戦争に翻弄される人々にとって、ジョーイが心の緩衝材となって、一時でも心を癒してくれる。
ジョーイが国境をも超えて「誰でも」人々を癒してくのは、まさに「戦争によって誰しもが巻き込まれた」という構図を強調している。



とんがっている部分がないのも事実(突っ込みどころも多数(笑))だが、「馬が主役」という要素が全体を締める役割を果たす。


















なんといっても素晴らしいのは、ジョーイを演じた馬たちの演技。

馬は犬と同様に、人間の行動にリアクションをする動物なので、そのリアクションがすなわち演技になるわけだが、
この映画ではもしかしたら『ジュラシックパーク』と同様にCGなんじゃないかと疑いたくなるほどだ。

眼と背中、行動で心情が思い描けてしまう。


CG全盛だからこそ実際の馬に演技させることに意味がある。さらにこのアナログな手法をCG映画の大家スピルバーグがやってしまったのだからさらにその意味は大きくなる。


















音楽は、あのジョン・ウィリアムズ。(『スターウォーズ』、『ジョーズ』、『ハリーポッター』のメインテーマ、『E.T.』『インディジョーンズ』『ジュラシックパーク』などなど映画音楽と言えばこの人と言えるほど数多くの名曲を生み出してきた)

常に作品に合った壮大なテーマ曲を送り出し続けてきた彼だが、今作でも笛的な音源を巧みにメインに据えて郷愁感にあふれる素晴らしいテーマ曲を完成させている。それが冒頭から流れてきてしまうのだからもう大変。こちらのアドレナリンも自然と上がっていく。

他のシーンでも一見するとジョンが得意とするオーケストラ的な音楽は似合わないシーンに考えられるが、そんなことはなくマッチしていた。それどころか、物言わぬ馬の心情を描くかのような音で私たちの物語への理解をさらに加速させてくれる。

さらにエンドロールでも全く飽きのこない音楽を聴けるのだから申し分なしだ。









安定して感動できる今作は、大作らしい大作として春休みに観るにはうってつけだろう。
動物がよっぽど嫌いでなければ、観て損はありません。


http://www.youtube.com/watch?v=XznX_TOYb_0