ガンダムA 10年6月号 MSVを甦らせた男たち

――MSV創世期当時、みなさんはどういった関わり方をされていたのでしょうか?
川口:僕は基本的にはひたすら作例を作ってました。設定関係や企画コンセプトは小田雅弘さんや安井尚志さんが大河原さんと相談されながら作ってましたし。僕や草刈さんはそこにアイデアを追加していった形ですね。
大河原:当時はまだ川口君は学生で、商売としてからんでいたわけじゃないですからね。私は言われるままにやっていたという面もあるんですけども。
川口:当時は他の作品も同時にやられたりするわけですからね。
大河原:常時3本はテレビシリーズを抱えてましたし、アニメ雑誌が創刊されたち、ポスター自体が商品になったりと業界の動きが活発な時期でしたから。そうなると安彦さんや私のところに発注が殺到してしまう。
草刈:そもそもMSVは氷川竜介さんが講談社の「機動戦士ガンダム」のムック本用に発注されたのが始まりだったんですよね。まだMSVという名前もなかった時期に、大河原さんにザクのバリエーション機を4機も描き下ろしていただいて。その頃は「機動戦士ガンダム」のムック本の記事もガンダム世界で遊んじゃおうって感じで、最初は商品化なんて考えてなかった。企画が進んでいく中で、いろんな所から安井さんが人材を集めたんですが、私も「コミックボンボン」の創刊間もないぐらいに、模型作りだけじゃなく本作りでお手伝いする事になったのがきっかけです。
――そうしたお仕事の中でガンダムは自由度は高いほうだったんでしょうか?
大河原:当時、ガンダムはイラストに関しては自由度が高かったですよ。自分のイメージで描く事もできたし、縛りがほとんどなかった。こういう色をつけたいなとか、こういうモビルスーツがあってもおかしくないあなとか、そういう事を自分の意志でできました。「とにかくアニメの設定通りに!」って指定してくるプロダクションもある中で当時はまだおおらかでしたよね。
――設定にはない斬新な配色。あのインパクトが後のMSVにつながってるように思えます。
大河原:私も最初はそんなに意識してなかったんですけどね。ただ違う色をつけたかったっていうだけで。マーキングに関しては当時のプロダクションの企画室のトップの方が戦記マニアでさ。設定と違う事にはおおらかなのに、撃墜マークを入れろとか、注意書きを入れろとか、汚しを入れてくれ、とかそういう要求だけはしっかりあった(笑)。
川口:大河原さんがポスターなんかで設定と違う色で塗られているのを見て、僕らは「あ、こういうのやっていいんだな」って安心感を頂いたので、通常のプラモデルを作る時にそういう要素を入れさせてもらってました。原点の4機が掲載されて、「これはやっぱり作っていこうよ」って。その時の戦記ノリの雰囲気を設定関係含めて小田さんにまとめていただいたという感じです。それがプラモデル商品や、MSVハンドブックになったりして、一気に認知度を高めたという流れですね。
――そのMSVが28年ぶりに復活したわけですが、今回はどのようなコンセプトで進められていますか?
草刈:昔のテイストというか匂いは残しつつ、あまり派手にならないようには気を遣っています。あまりカッコ良過ぎてもMSVじゃないし、新機体ではなく、あくまで「バリエーション」ですから。当時はどうしても一年戦争を太平洋戦争に見立ててバリエーション機を考えていたんで、そのへんのニュアンスは今も残しているつもりです。今回大河原さんにお願いする部分としては、とにかく作画にできるだけ時間をとってもらう事ですよね。当時はかなりキツいスケジュールの中で描かれてたと思いますので。
――ゲームやOVAで「一年戦争時代のバリエーション機」自体はたくさん生み出されていますが、やはりMSVは特別ですね。
大河原:やっぱりスタッフが違うと、また違うテイストになってしまうんでしょうね。今回に関しては、私が信頼する方たちからの発注なので、気が楽です(笑)。昔だってそうだったしね。しっかりとした考証も用意されているので、結構楽しんでいます。
川口:30年にわたる積み重ねで増えた設定との整合性に関しては、宇宙世紀専門家とも言える設定考証の岡崎昭行さんが綿密にチェックして下さってます。
草刈:「仮面ライダー」における「S.I.C.」のように、商品という事では平行していろんなガンダムがあっていいと思うんですけどね。
川口:ただ、宇宙世紀という制約の中で新しい機体を生み出すからこその楽しみというのがあるはずなので、既に存在する設定というのは尊重したいですよね。
草刈:「僕の考えたすんごいガンダム」とはまた違う方向性でね。
――大河原さんは一方で「SEED」など最近の作品を描かれているわけですが、作風が引っ張られることはないですか?
大河原:それはないですね。「MSV-Rを当時のまんまのテイストで描く」というのは「ボトムズ」などでも訓練していますから。当時のテイストのままという形でもデザイナーとしての楽しみ方というものはありますので、あまり気にしていませんね。あと私は器用じゃないから、あまりタッチが昔と変わってないっていうのが幸いしてます(笑)。
――MSVジョニー・ライデンのようなオリジナルのエースパイロットも生み出しましたが、今回はそれに関しては?
草刈:実は当時でもジョニー・ライデンシン・マツナガといったキャラクターが浸透するのには時間がかかっているんです。パイロットというのは、認知されるまで時間がかかりますよ。機体のほうがやはりメジャー度が高い。ただ今回も、キャラクターに関してはこれまでの連載の中にもそれを匂わせる要素を盛り込んでいるので、よく読み返してみて欲しいですね。すでに発表されている「黒い三連星」のザクS型みたいに、既存のエースの登場だとか、楽しんでもらえる要素はまだまだあると思います。
川口:ただその方向に行きすぎてワンオフの機体のオンパレードになってしまうとMSVらしくはないので、そのあたりはバランスをとらないと。普通の人が乗っているのもいないといけないと思うんですよね。
――1回目のグフ新デザイン募集では若い人や女性からの応募も多く驚きました。
川口:お父さんが好きだから子供も興味を持つという事もあるし、ゲームが入り口という層も多いのでしょうしね。
草刈:デザインコンテストと言えば、あの大賞を獲ったグフのアイデアにはみんなビックリしたよね。ボディにドップが収納されちゃうという。リアリティーの加減と遊びのギリギリのバランスが良かった。
大河原:思えばMSVも本編とは関係がない次元で、内輪で遊ぶような、そのくらいのノリで始まっていたわけですから。
川口:当時は公式にしようという意識もなかったですからね。
大河原:だから「Ζガンダム」本編に登場するって聞いた時には「本当に? そんな事やっちゃっていいの?」って思ったぐらいで。
――第2回デザイン応募ではどんな作品が集まって欲しいでしょうか?
川口:多分、ガチガチに考証し過ぎると息苦しくなるので、多少柔軟なくらいがいいんですよ。もちろん限度はあるでしょうけど。
大河原:ドイツ車なんてそういうトンデモ兵器ばっかりで面白かったですからね。
草刈:まぁ、ザクレロとか作ってますから(笑)。
川口:今回のMSV-Rでは、僕は自分で「これの模型が作りたい」と思えるような企画にしたいという気持ちが大きかったんです。読者のみなさんも、自分で描いてて楽しいもの、模型を作りたくなるものを描いてみて欲しいです。
大河原:コンテストの審査員をやるときに、「遊び心」が残っている作品を基準に選ぶ事が多いんです。だから難しく考えずにお子さんや女性の方を含めて、たくさんの人に参加してもらいたいですね。

個人的に、岡崎氏一人が考証を担当していることが、現在の設定関連の悪しき弊害になっていると思う。もう一人か二人つけるべき。ただし石井氏、テメーはダメだ。