"見よ、俺の斧さばきを"『リンカーン 秘密の書』
ティムール・ベクマンベトフ監督作。
母を殺した男はヴァンパイアだった……! エイブラハム・リンカーンは子供の頃に目撃した母の仇を殺そうとしていたが、ヴァンパイアの強大な力と不死身の肉体に敗れ、重傷を負う。ヴァンパイア・ハンターを名乗る男ヘンリーに助けられた彼は、自らも愛用の斧を携えヴァンパイア・ハンターとなることを選択する。仇を追い求めながら、他のヴァンパイア達を狩るリンカーン。やがて、彼は吸血鬼たちがこの国の奴隷制度を隠れ蓑にしていることを知る……。
ターセムと並んで信用ならん監督四天王の一人(あと二人は誰だ)である名前が粘ついてるベトール・ベトベトベトフの新作ということで、あまりコストをかけたくないという意識から2D版で鑑賞という体たらく。
『ウォンテッド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110103/1294029470)もそうだったが、アクションが売りのような監督なのに、相変わらず殺陣に脈絡がないのが痛い。一応歴史あるあるものでもあるんだから、斧を振り回したのはワシントンじゃなかったっけ、という雑な知識をひっくり返してもらいたかったのだが、子供の頃から薪割りをやっていた、という理由だけでリンカーンが斧使いになってしまうから釈然としない。なんか斧絡みの名言があったんじゃなかったっけ? 銃は苦手、とか言いながらきっちり仕込んでるし、なんじゃそら。原作ではこの愛用の斧にも名前がついていたりするらしく、メインウェポンとして重要な存在らしいのだが、映画ではまったくそういうことがわからんのだよね。
さて、その仕込んである銃も一発撃ってしまいだし、斧を手元で振り回すモーションも格好良いだけでその動作に何の意味付けも感じられない。馬のシーンもこれまたいつからそこにおったのかもよくわからん馬たちが、脈絡なく急に走り出してその上で戦って、しかも決着は別のとこでついてしまう。いや〜、これは何やら3D効果を見せたかったのだろうかね。
全般的にアクションシーンの作中での意味づけが希薄で、単に格好だけに見えるのだよね。こだわってるところが偏り過ぎていて、要は独りよがり。
が、今回クライマックスの汽車のシーンはまずまず良かった。ちゃんと舞台に必然性があってストーリーとも連動しているし、橋の崩壊からヴァンパイアの超絶的な力を見せるあたりも面白い。
しかし3Dのところを2Dで観てしまったせいか、背景やエフェクトがものすごく嘘もんぽくて、ここも『シャーロック・ホームズ シャドウ・ゲーム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120331/1333159527)の方が良かったような……。
ところでこの主演のベンジャミン・ウォーカーって誰? 演説シーンのしょぼさに「はは〜ん、これはリンカーンも若い頃は人気なかった、というギャグなのだな」と思ったら、それで大人気になったから仰天したよ。若い頃はどうってことなかったが、ラモーナさん共々老けメイクしたリンカーンが、肖像画そのままのルックスになって斧を振り回す段になって、やっと絵面の面白さが出てきた。とはいえ、中年時代をあまりにも端折り過ぎてみんな急に老けるからメイクに対する笑いの方が先に立つ。
肝心の吸血鬼の存在する裏の歴史も序盤にざっと説明するばかりで、歴史あるあるの醍醐味も味わえないまま終わってしまった。もっとすごいこじつけやトンデモ、つじつま合わせの陰謀論を交えて語るのかと思っていたのだが。
昼間に吸血鬼が自由に行動してるあたりの御都合主義っぷりもなあ……。これを許してしまったせいで単に、軍隊に吸血鬼が加わってて強い、という銀の弾があるかないかだけで決着がつくような雑な展開になったね。っていうか、これだったら思いっきり歴史に残ってしまうがね。
ん〜、『ウォンテッド』みたいなオリジナルのアクション映画なら、別にこういう薄く浅いカッコだけのものでもいいと思うが、歴史の裏にフィクショナルに迫った小説の映画化がこれというのはまずいんでないの。まあ読んでないからそこらへんは置くが……。
ダイジェスト的に構成するにしても、序盤、中盤、終盤の力点がばらけ過ぎている感が強く、もうちょっとなんとかならんかったのかなあ、という気持ちでいっぱいになりました。
あと邦題ね。「ヴァンパイア・ハンター」を削ってまで「秘密の書」と入れるからには、「ネクロノミコン」的な重要アイテムかと思ってたら、単なる日記やん!

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