株式取引はゼロサムゲームか? 1

株式関係のサイトを見ていると、「株式取引はゼロサムゲームでは無い。企業成長とともに株価が上がる場合も多く、
そうした優良株においては投資家全員がWin-Winのプラスサムゲームである。」といった主張が時々目に付きます。
これは正しいでしょうか?
個人的には、どうも違和感を感じてなりません。
そこで「株式取引はゼロサムゲームか?」について考えてみました。


株式売買でクローズアップされるのは、キャピタルゲインです。
しかし、実際には以下のような要素も絡みます。


まず今回は、これらの要素は除いて、単純な買い値、売り値差し引きだけでの市場全体の収支を考えてみます。
個々の1株で考えるのが簡単です。


ある新規発行株が100円で売り出し、1年後に株価300円となった場合を考えてみましょう。


ある1株のケース1

Aさんが、新規発行時に買って1年間ホールド。

  • Aさん +200円

⇒ この1株に関わった全投資家の合計収支(含み益含む) +200円


ある1株のケース2

Bさんが新規発行時に買って、Cさんに200円で売る。
Cさんは年末までホールド。

  • Bさん +100円
  • Cさん +100円

⇒ この1株に関わった全投資家の合計収支(含み益含む) +200円


ある1株のケース3

Dさんが新規発行時に買って、Eさんに300円で売る。
EさんがFさんに200円で売る。
Fさんは年末までホールド。

  • Dさん +200円
  • Eさん -100円
  • Fさん +100円

⇒ この1株に関わった全投資家の合計収支(含み益含む) +200円


つまり、株式上場中では含み益まで考慮すると、どんな売買過程を辿ろうとも次のようになります。


その株に関わった全投資家の合計収支 = 現在株価 − 発行売り出し価格


これは株の売買というものが「買う人と売る人が対になっている」ことに基づいていて、必ず成立します。


しかしながら、物事には必ず終わりが来るもの。
株式会社も例外ではありません。
株式売買というゲームがゼロサムゲームかどうか、は、この終わりこそが重要になります。


ある企業が債務超過上場廃止、ゼロ円の紙くずになったとしましょう。
すると、その株に関わった全投資家の合計収支は、次のように確定します。


その株に関わった全投資家の合計収支 = − 発行売り出し価格


マイナスサムゲームです。
もっとも、株式の最終清算は紙くずばかりとは限りません。
企業解散時に残余財産分配が発生したり、企業再編によって全株式買取りとなるケースなどもあります。


結論として、その銘柄全体での投資家の合計収支は一般には以下となります。


全投資家の合計収支 = 株式の清算総額 − 株式の発行売り出し総額(※1)


プラスサム、ゼロサム、マイナスサムいずれの場合も有り得る、ということです。
冒頭のような主張は、企業の終焉というものを真面目に考えていないことに起因しているのです。


株式譲渡税、売買手数料、インカムゲイン(配当、優待)などを考えると、問題はさらに複雑になります。

(続く)


(※1)
これは企業解散時の資本金とほぼ同じイメージです。
ただし、出資で調達した金の全額が必ずしも資本金に加わるとは限らないので、このような表現にしています。