第2話「コイル電脳探偵局」

小説版も読了して、第2話を見ました。

小説版の巻末にも書かれているように、アニメ版と小説版とは設定ですら異なっている、パラレルワールドな作品と考えたほうがよさそうです。

世界観やギミック、登場人物名は共通ですが、まずキャラの性格が違っているので、同じシチュエーションに置かれても行動が変わってくるのです。


端的に言ってしまうと、アニメ版の方がキャラの葛藤が少ないと感じました。
また、細かい伏線を多用せず、ストレートに話を進めている感があります。

ただし、これらは欠点ではなく、メディアとターゲットを考慮した上でのそれぞれの最適解であると思われ、寧ろ美点であると言えましょう、


その違いを意識しながら、第2話を振り返ってみます。
例によってネタバレあります。






第1話は、遺棄された電脳空間から電子ペットであるデンスケを救出後、違法電脳物質・プログラムを追尾・破壊する「キューちゃん」に追われた挙句、その親玉である「サッチー」ことサーチマトンが壁から出現するというクライマックスで終わっていました。

第2話は、そのまま続きのシーンからスタートでした。

前回、電脳コイルの世界は「Mixed Reality」と書きましたが、サッチーの登場シーンはそれを典型的に表しています。

優子達が見ている、デンスケ、キューちゃん、サッチーは全てバーチャルな存在で、メガネ越しにしか見る事が出来ないものです。

そのサッチーが、壁から出現してきたということは、メガネ越しに見られる電脳世界は、現実の「大黒市」を電脳空間中に完全に再現している、という事になります。


現実と全く同じ都市をセカンドライフのように構築し、これをメガネの視界に映る現実の都市と寸分違わぬようにオーバーラップさせているのです。

この電脳大黒市を体感するには、メガネが必要なのですが、小説版では6歳から13歳(手元に本がないので後で確認します)の子供だけがメガネを使用できる、という事になっており大人も優子の妹である京子も電脳空間は見えない(但し京子は感知できている描写あり)、という設定になっています。

アニメ版では、京子もメガネをかけているようですし、朝のシーンでは別のメガネも見えたので、大人もメガネを使っているのかもしれません。
(デバイスとしては同じだがアクセスしている電脳空間が大人と子供で違うのかもしれません)


暫定的に、電脳大黒市が子供専用だとして考えると、管理者が電脳大黒市の秩序を維持するために徘徊させているサッチーに、不可侵領域(学校、家、神社)が設定されているのも納得がいきます。

この管理者は、子供達が電脳大黒市のルールから逸脱することを予め許容しているのですね。

とはいえ、サッチーの行動範囲内で違法行為が発見された場合は容赦しない訳で、優子とフミエはサッチーに追われる羽目になりました。

小説版では、優子の脳裏に啓示が訪れ、知らない筈の街を失踪して神社に逃げ込むのですが、アニメでは普通に逃げ回っただけでした。

強大な力を誇ったサッチーが、鳥居によって空間的に妨げられる描写は秀逸です。
これこそが、アニメだからこそ見せられる表現の醍醐味というものですね。


さて、小説版で優子に道を指し示したのが、忘れ去られた過去の記憶なのか、別の意識や存在が関与しているものなのかは有耶無耶になっています。

小説版では「ミチコさん」の存在や、優子の別れてしまった親友の記憶、勇子の目的などが描写されており、それぞれ失われた何かを得るために、イリーガルの中にあるキラバグを探そうとする物語が紡がれていくようです。

けれどもそれらは、所詮電脳空間での万能鍵でしかありません。
その万能鍵を使って開いた仮想の世界で得たもので、子供達は現実の何を得るのか? …それが「電脳コイル」という作品のテーマではないかと考えています。


後半は、メガシ屋のメガばあの出番です。
怪しさ満開ですが、小説で描かれたコイル電脳探偵局に入るかどうか、という葛藤は割愛されていました。
デンスケの救助を取引材料にしないことと、自分から「ヤサコ」と名乗るかどうかが、小説版とアニメ版との優子の性格を大きく隔てているように思います。
(受動的なアニメ視聴の流れと、能動的な読書との差とも言えますが)

また、フミエもアニメ版では随分優しくなっています。
小説版では、優子がフミエの背の低さを意識したことを察知して、優子に食って掛かるところから始まり、メガシ屋での支払いも優子任せ(元々はヘップバーンと引き換えたメタバグを回収しただけとはいえ)だったのが、普通に貨幣を支払い、メガビームを分けてあげたり、デンスケ治療のためのアイテムも提供していたりします。


小説版を読んでいると、各キャラの心理的背景が判り、そう簡単には他人と馴染めない事情も判るのですが、フミエについてはそういった心理障壁は低いようですね。

今後、反目しながらも意識せざるを得なくなるであろう勇子との関係を考えると、フミエの立ち位置がどう変化していくのか、興味深いところです。


アニメでは次回ようやく優子と勇子が出会うようです。
ダイチ vs 勇子の電脳戦争やハラケンがどう描かれるのか気になりますが、NHKの電脳コイル公式サイトに発表されている6話までのサブタイトルを見ると、小説版とは相当違った展開になりそうです。

5月26日 第3話 優子と勇子
6月 2日 第4話 大黒市黒客クラブ
6月 9日 第5話 メタバグ争奪バスツアー
6月16日 第6話 赤いオートマトン


小説版作者の「アスカではない」宮村優子さんによると、小説版では「アニメ版を踏襲しつつも新しいキャラクターを登場させながら独自の物語を展開させてゆく予定」(三番目のユウコ通信 vol.1より)との事ですので、7月刊行予定の第2巻も楽しみです。


電脳コイル 第1話「メガネの子供たち」

電脳コイル 公式サイト

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