表現主義が生み出したドイツ映画のスタイル
表現主義はドイツ映画に1つのスタイルを与えたといわれている。それは、建築的・絵画的造形性である。「カリガリ博士」以後、多くの画家・建築家・セットデザイナーの協力を得てドイツ映画の画面は作られるようになり、フレームの中の秩序を重視し、セットを第一とするようになったという。カメラはセットの造形性を生かすために使われ、特殊なカメラ・アングル、セット中心的なカメラ位置が生まれた。岡田晋はこのドイツ映画のスタイルを、「スタジオの閉ざされた人工的空間が唯一の世界」と呼んでいる(「ドイツ映画史」)
こういったドイツ映画のスタイルは、演出を室内劇的とし、俳優の演技も舞台的とした。また、照明はセットを生かす重要なファクターとなり、ロマンティックな雰囲気や心理的ニュアンスが引き出されるようになった。
ドイツ映画のスタジオ主義は、照明・セット・撮影との緊密な統一を作り上げた。そのため、1920年代のドイツ映画界には優れたカメラマンが多く登場した。岡田晋は「ドイツ映画史」の中で、次のように述べている。
「彼らは、現実の生活を切り取るリアリズムより、フレイムを中心とする美学の創造を目ざし、あくまでつくられた世界、完成した構図、体系的な空間を追求した。のちにこれは、一つの形式主義として、ナチス映画に受けつがれていくことになる」
パウル・ヴェゲナーは表現主義的な「巨人ゴーレム」(1920)を監督・出演している。中世ヨーロッパに語り継がれているゴーレム伝説に基づく作品で、ヴェゲナーは3回映画化しており、この作品が最後の映画化である。ユダヤ人の迫害をやめさせようとラビが土に呪文をかけてゴーレムを誕生させる。ゴーレムは強力なパワーで王の考えを変えさせるが、ラビの娘に恋をして暴れだすという物語である。「巨人ゴーレム」でも、照明によって明暗豊かな画面が作り上げられた。
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