街森研究所

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吉野の桜が日本一の理由

 それが分かった気がする。なぜ吉野山奈良県吉野町)のサクラが日本一と言われるのか。答えは簡単で、目に入るサクラの95%以上が日本古来のヤマザクラ(山桜)だからだろう。

 ご存じの通り、私たちがふつう花見をするのはソメイヨシノ染井吉野)と呼ばれる園芸品の桜。各地の花見名所やお山のてっぺんによく植えられているのも、ソメイヨシノが圧倒的に多い。それに対し、日本でもともと見られる野生の桜はヤマザクラがメインで、花が開くと同時に赤い若葉が出ることが違いだ。この赤色が、吉野の景観に大きなインパクトを与えている。たとえば、花が散った後は赤い若葉だけが残り、木全体が赤くなってまるで紅葉のように見える。また、若葉の色には個体差があり、緑色っぽいもの、茶色っぽいものなどが入り混じるので、様々な色の表情を見せてくれる。“クローン桜”のソメイヨシノにはない多様性だ。

 現実には、吉野山にもソメイヨシノがちょこちょこ交じって植えてあるし、枝垂れ桜や八重桜の類も多少植えてある。山の中腹に群植されたヤマザクラも、すべてが完全な野生品という訳ではなく、吉野在来のヤマザクラの中から花が美しいものなどを選抜して育てていると聞いた。でも、今回歩いててソメイヨシノの存在はほとんど気づかない(葉桜状態のものが多いため)ぐらいだったし、これほど徹底してヤマザクラを植えている桜名所を私は今まで見たことなかった。

 この吉野の桜絶景に魅せられてか、山に桜をたくさん植える活動が各地で見受けられる。しかし、その大半はソメイヨシノであったり、流行りの園芸品の桜だったりして、地域在来の桜を活かそうとした活動をあまり見かけない。学ぶべきは、吉野の桜の多さとか、表面的な美しさではなく、地域の資源を活かしたその精神にあると思う。