『桂川地蔵記』に見る「地蔵」の字解
『桂川地蔵記』(桂地蔵記)については、『遊仙窟』と『文選』の引用を調べるために江戸時代の写本を昔ちらっと見ただけでしたが、このたびの影印本刊行で初めて全てにざっと目を通しました。カラー写真は鮮明。
- 作者: 高橋忠彦,高橋久子,古辞書研究会
- 出版社/メーカー: 八木書店
- 発売日: 2012/05
- メディア: 大型本
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いろいろと興味深く感じるものや気づいたものはあったのですが、私は特にことば遊びに関心がありますので、「地蔵」の字を分解して字謎として解釈している箇所をご紹介します。
応永二十三年七月五日に突然桂川のほとりに出現して霊験を示す地蔵像。しかし、いつまでもそこにいらっしゃるわけではないだろうということで、巫女が三人の学者に「いつ地蔵は消えてしまうのか」と尋ねる場面が下巻にあります。そのうちの一人「字訓子」という学者が、七月五日より「七十一日目」にお隠れになるだろうと答える。その理屈は(以下、現代語訳)、
桂地蔵の三つの文字を調査分析してみますと、桂の字の木偏は、十八、旁にあたる圭の字は、十一十一と読めます。地の字は、旁の也の字を除けば、土偏で十一です。蔵の字は、草冠だけ取り上げれば二十であり、以上合計七十一であります。また、蔵(藏)より草冠を除いた臧の字は、発音は茲郎の切(ソウ)で、意味は善です。これから考えると・・・七十一日にして、地蔵の善縁は尽き、教化は終わることになるでしょう。
(324頁)「也」の扱いにはちょっと困ってしまったのであろう・・・w なお、「調査分析して」は原文では「験過」。見たことない熟語だ。
別の学者「月令子」はこんなことも言います。
・・・それ故、七月五日より数えて百日以内に、必ずや大過が有るでしょう。大過が有るとは、片臣が戈を動かして必ず上を犯す象なのです。思うに、かの地蔵の二字から、土偏と草冠を除いて、・・・残った也と臧の二字について、詳しく検討してみると、也の字は、亦の意味です。臧の字は、分解すれば『片臣戈』と書きます。爿は反転した字形なので、正しくは片の字です。
(325頁)「反転した」というのは原文では「左字」です。
見ての通り、恣意的な操作が甚だしく、それほど出来のいい言葉遊びとはいえませんが、こういったものが当時喜ばれたのだという例にこれも加えることができるわけですね。
余談ですが、本書の「解説」の最後に挙げられている参考文献に、藤井毅「前田家本桂川地蔵記の訓点」が挙げられていますが、著者は「藤井毅」氏ではなく、「平井秀文」氏です。
https://qir.kyushu-u.ac.jp/dspace/handle/2324/15465
本当にちゃんと参照したのかな・・・