涜書:ルーマン『目的概念とシステム合理性』

目的概念とシステム合理性―社会システムにおける目的の機能について

目的概念とシステム合理性―社会システムにおける目的の機能について

現時点で「標準的」であろうと思われる経営学の教科書いくつかをパラパラとみていて疑念が生じてきた。
一方に「バーナード〜サイモン」、他方に「テーラー主義→人間関係論」を置き、それぞれを出発点を出発点に、その後の系譜を辿る学説系譜図をつくってみると、みごとに、「目的-と-動機」の図式のなかで議論が推移しているようにみえてくる。だが/だとすると、社会学の──たとえば「社会的行為論」への破産宣告のような──メッセージは、ひょっとすると経営学にはほとんど届いていないのではないか? ‥‥という疑念、これである*1

  • <目的/手段>図式と<目的/動機>図式との混交。
    • 「動機」は奇妙な仕方で目的論に混交されて回収されるか、「心理的側面」として位置づけられることにより組織論から放逐される。
    • あるいは──「同じこと」だが──、経営学における「人間的」(またはインフォーマル/非合理的)な側面として、組織論のうちに包摂される。
  • <目的/手段>図式-<目的/動機>図式-混交に、さらに<上層/下層>図式[=階層論]が合わさり、それによって<組織論/戦略論>が分離されつつ調停される。
  • 「目的」優位の議論[経営学の主流]と「支配」優位の議論[主流への政治学風「批判」]の抗争。
    • しかしその抗争の前提は問われない。
  • ハイアラーキカルな組織論に対する批判は、組織における「支配」への批判につかわれるか、あるいは「新しいタイプの組織」の特徴付けに利用される。
    • そもそも組織がなぜ階層表象を必要として来たのか、は問われない。

‥‥などなど。

社会学のなしうる仕事は、ここにもまだまだたくさん残っているようだ。──というのが、現時点での「印象」。


と思ったので「社会学からの経営学の観察」の古典を再読してみる。

言及されている経営学の古典と並べて読んでみると。
ずいぶん とっちらかった──ルーマンの文才の無さが確認できる──本だが、常人にもわかるように記述を修正して「再編」してやれば──ついでに新書かなんかで出せばw──いまでもかなり有用なものであり、まだ「経営学の観察」へのガイドとしての価値は残っているのではないかしら、と思った。(あるいみ遺憾ながら。)

全体の構成

  • 【行為論への一般的・批判コメント】
    • 序論 行為とシステム
  • 【「行為の目的」と「組織の目的」の差異に関する一般的コメントと本書の結論】
    • 1 行為と、行為目的の特殊化
  • 【回顧と批判】
    • 2 古典的な組織学説におけるシステム概念と目的理論[古典的組織学説の定式化]
    • 3 批判的潮流と新しい立場[古典的組織学説への批判として登場した諸学説の回顧とそれらへの批判。]
  • 【本論:目的論の再定式化】
    • 4 目的設定の機能
    • 5 目的プログラミング[4への付論]
  • 【付論】
    • 6 経験的研究と規範的研究の分離について

3章の小見出しと概要

  • 警察国家から法治国家
    • [法学:「国家用具説」からの脱却。<if/then>図式]
  • 最適化原理とその批判
    • 経営学における経済性原理:バーナード=サイモンの<有効性/能率>区別。限定合理性。]
  • 貢献への動機付けの理論
    • [動機と目的の分離。表出的・充足なものと用具的・技術的なものとの分離。動機構造と合理性構造の分離。人間関係論。<公式組織/非公式組織>区別。]
  • 存続定式
    • [ゼルズニック「制度的組織理論」。ベイルズの小集団実験〜パーソンズAGIL図式。]
  • サイバネティクス的制御
    • サイバネティクスによる目的論の抽象化と矮小化。「サーボメカニズム」から「コミュニケーション論」への転回。]

今後のサーベイへのガイドとして使うために、2章をまとめてみる。


*1:© 渡邊二郎。(リンク略)