1館当たりの貸出は伸びていない

数日前の記事。

asahi.com朝日新聞社):図書館利用、過去最高 小学生は年間35.9冊 - 社会
http://www.asahi.com/national/update/1113/TKY200911130349.html

小学生、年36冊借りました 図書館で過去最高 : 出版トピック : 本よみうり堂 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20091113bk02.htm

図書館:借りて読書 本好き小学生、年に35冊 文科省調査、過去最多 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20091113ddm012040011000c.html

いずれも、文科省が行っている社会教育調査の中間報告に基づいたもの。

社会教育調査-平成20年度(中間報告)結果の概要:文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/kekka/k_detail/1286560.htm

いずれも児童への図書館の貸出が増加していることを取り上げている。


この社会教育調査については、3年毎に行われているもので、過去2回このブログで取り上げた。

図書館貸出増加の鈍化 - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20030920/p1

貸出冊数増加率は回復 - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20060723/p1

2003年のエントリーでは、不況によって図書館での貸出が急増しているという文科省のコメントや新聞記事に対して、確かに貸出冊数は増えているが増加率は鈍化している旨を指摘した。
2006年のエントリーでは2003年と比較して、増加率が回復した旨を書いたものだ。
ということで、今回も図書館の貸出数がどのような傾向にあるかを見てみた。
ただ貸出数だけ見てもつまらないので、併せて図書館の館数も見てみた。
結果は以下の通り。

  貸出冊数 増加数 伸び率 図書館数 増加数 伸び率 1館当たり貸出冊数 増加数 伸び率
平成元年度 266,020,751     1950     136420.8979    
平成 4年度 323,606,639 57,585,888 21.65% 2172 222 11.38% 148990.1653 12,569 9.21%
平成 7年度 404,160,602 80,553,963 24.89% 2396 224 10.31% 168681.3865 19,691 13.22%
平成10年度 480,422,204 76,261,602 18.87% 2592 196 8.18% 185348.0725 16,667 9.88%
平成13年度 520,831,316 40,409,112 8.41% 2742 150 5.79% 189945.7753 4,598 2.48%
平成16年度 580,828,879 59,997,563 11.52% 2979 237 8.64% 194974.4475 5,029 2.65%
平成19年度 631,872,611 51,043,732 8.79% 3165 186 6.24% 199643.7949 4,669 2.39%

まず、貸出冊数について。
絶対数は過去最高だが、前回調査との比較では、増加数と伸び率がまた落ちていて、前々回調査と同レベルである。
平成元年度から平成10年度の間に貸出冊数は急増したが、平成13年度以降はそれまでに比べて増加傾向が落ち着いて来ていると思われる。

図書館の数については、貸出冊数ほどの変動は見られないが、伸び率は平成13年度に下がって平成16年度に回復、そして平成19年度に再び下がるという動きは、貸出冊数伸び率の変動とパラレルのようだ。

そして、貸出冊数を図書館数で割った1館当たりの貸出冊数の動きを見てみたが、なかなか興味深い傾向があった。
平成10年度までと平成13年度以降では伸び率に大きな差がある。
平成10年度までは対前回比で9%以上の伸び率だったが、平成13年度に伸び率が2%代に下がり、以降2%代が続いている。


この数字からみると、平成10年度までは新規開館だけでなく、既存の図書館でも貸出数が増加していたが、平成13年度以降の図書館の貸出冊数の増加は、新規開館した図書館の貸出によるもので、既存の図書館での貸出の伸びは止まっているのではないかと、推察できる。

既存館と新設館の貸出数のデータがあれば、本当にそうなのか検証できると思うが、図書館の貸出というのは、一定のところまで普及したことではないだろうか。


もちろん、貸出だけが図書館のサービスではないし、*1その他のサービスの状況についてはデータをちゃんと見ていないので分からないが、貸出以外の図書館利用を育てる時期に来ていると言えるかもしれない。


なお、今回の調査は平成20年度に行われたものだが、利用実態は平成19年度のものである。
つまり、リーマンショック以前の数字だ。
この数字を見る上で、その点は留意する必要がある。

*1:私は図書館ではほとんど本を借りない。

文化庁の「著作権法入門2009」

前に、文化庁がサイトに掲載している「著作権テキスト」で、非営利・無料の権利制限に関する記述が、政府答弁を反映したものになっていることを書いた。

文化庁の「著作権テキスト」平成21年版が公開されていた。 - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20090912/p1

この「著作権テキスト」はPDFで提供されているものだが、その紙版とも言える「著作権法入門」の2009年版が10月に出ていたので購入した。

アマゾンにはデータが無いようなので、bk1へのリンクを載せておく。

オンライン書店ビーケーワン著作権法入門 2009
http://www.bk1.jp/product/03185017

同じように非営利・無料の権利制限に関する記述を確認してみた。
すると、「著作権テキスト」と同様の記述が104ページに記載されていた。*1

※ 本条にいう「営利」とは,反復継続して,その著作物の利用行為自体から直接的に利益を得る場合又はその行為が間接的に利益に具体的に寄与していると認められる場合をいいます。
 また,本条にいう「料金」とは,どのような名義のものであるかを問わず,著作物の提供又は提示の対価としての性格を有するものをいいます。逆にいえば,授業料や入館料等を徴収している施設であっても,それらが著作物の提供又は提示の対価として徴収されているものでなければ,本条の「料金」には該当しません。

改めて言うがこの記述は非常に重要なものだ。
文化庁名義で出している出版物に記載されたことは本当に重要だ。


さらに言うと、この記述が影響するのは貸与権だけではない。
「上演」「演奏」「上映」「後述」「貸与」*2「放送の伝達」「放送番組の有線放送」について、この記述は関わってるくる。
何が「営利」で何が「料金」に該当するのかは、利用する側も権利者の側も、この記述に基づいて判断してみる必要があるだろう。

*1:購入した当初はその記述を見逃しており、twitter上で記述が無いとつぶやきましたが、ちゃんとありました。私の見落としでした。謹んで訂正させていただきます。

*2:映画の著作物の貸与は「補償金」の支払いが必要。