「食べること、やめました」−1日青汁1杯だけで元気に13年 森 美智代著 その2

超少食を続けている人の体

森さんは1日1杯の青汁、カロリーにして約50〜60kcalという、甲田先生が「仙人食」と呼ぶ食事法だが、森さん一人だけがこういう食事をしていて元気なら、ただの特殊な人で終わってしまう。が、他にもごく少量の食事しか取らないことで難病を克服した人が紹介され始めたからか、少食が人体へ与える影響について研究する人もいる。

  • 理化学研究所・微生物系統保存施設室長 辦野 義己(べんの よしみ)氏

腸内細菌の研究を始めて30年。こんなサンプルを見たのは初めてです。

辦野氏がいうには森さんの腸は日本人離れという次元ではなく、人間離れしており、むしろ牛に近いらしい。 通常人間の腸には100兆個ともいわれる腸内細菌が住んでいて、その種類はわかっているだけでも500種以上。 それぞれの最近は、いつも腸内で勢力争いをしている。 ちなみに、便の半分はこの最近の死骸といわれているので、便を調べれば、その人の腸内細菌の種類やバランスがわかる。


森さんの腸内には、通常人間にはほとんどいない細菌がたくさんいたり、ある種の働きをする菌類が普通の人の何倍もいたりして、種類とバランスが特殊だった。その代表としてあげられたのが、「クロストリジウム」という菌。これば植物の繊維を分解して、たんぱく質の材料であるアミノ酸を作り出す菌。一般に人間の腸には、0.1%くらいしかいないはずのこの菌が、森さんの腸には100倍近い9.8%もいた。植物の繊維を分解できる菌には、ほかにも「ユーバクテリウム」などいくつかあるが、それらをあわせると、普通の人の腸には30%ぐらいいるそうだが、森さんの場合は約60%だった。


牛は草だけを食べているのに、あれだけの大きな体を作り、メスならたんぱく質や脂肪の豊富な牛乳を作る。それは、草の繊維を分解して、体や牛乳の材料になるたんぱく質や脂肪を作り出しているからだ。そのために働いているのが、牛の消化管(牛の細菌は腸だけでなく、胃にもすんでいる)であり、森さんの腸にも繊維を分解し、たんぱく質の材料と作り出す菌が「人間離れして牛なみ」に多く含まれているということになるらしい。


クロストリジウムやユーバクテリウムなどの細菌は、植物の繊維を分解して餌にしながら、腸内にあるアンモニアからアミノ酸を作り出す。 アンモニアは、体内でたんぱく質が使われたあとにで出る代謝産物、つまり「カス」。アンモニアのままでは有害なので、体内では、アンモニアを安全な「尿素」に変えて蓄える。その多くは尿として、一部は腸から排泄される。


が、実は使ったあとの「カス」であるアンモニアの中にはたんぱく質の材料になる窒素がかなり含まれる。クロストリジウムやユーバクテリウムなどは、この窒素を利用してアミノ酸を作り出す「アンモニア利用細菌」なのだそうだ。つまり、これらの細菌は、捨てるはずのものをとことん利用する「リサイクル細菌たち」だったのだ。これらの細菌のおかげで、森さんの腸内では、普通は消化出来ない繊維を消化したうえ、普通は捨てるアンモニアからたんぱく質の材料を作っているらしい。


森さんはこのことについて、「初期の長期断食や生菜食で体重の減りが大きく、回復にも時間がかかったことを考えると、体を慣らしながらそういうった食生活を続ける中で、体が適応していったと考えるのが自然でしょう。」と述べ、本の中の随所で急激な減食や無茶な断食は非常に危険であることを繰り返し説明している。


「人間離れした」細菌構成を持つ人はパプアニューギニアの高地にすむ人にも見られるらしい。イモ類など、ほとんど植物性食品しか食べないのに、体格がよく元気で、彼らの腸にも「アンモニア利用細菌」が多いとのこと。これもまた、長い年月をかけて、その地の食生活に体が適応した結果なのだろう。