「食べること、やめました」−1日青汁1杯だけで元気に13年 森 美智代著 その3

少食実践者の体の研究
  • 順天堂大学病院 健康スポーツ室 佐藤裕之氏、順天堂医院管理栄養士 篠宮真理氏

森さんの健康状態を調べた結果、内臓や血液、栄養状態に異常はなかったが、尿検査の結果では普通の人は殆ど出ない「ケトン体」という物質が強陽性、つまり「たくさん出ている」ということだった。ケトン体とは、アセト酢酸、ベータヒドロキシ酪酸、アセトンの総称でいずれも脂肪酸アミノ酸代謝産物。体内に、エネルギー源である糖質がなかったり、不足していたりするとき、その代用として脂肪酸アミノ酸を燃やした際に出る物質で、飢餓や糖尿病のとき、体内に増加することがしられている。


体内にケトン体が増加するのは、通常は、体にとって危険なこととされている。エネルギー源として速やかに燃える糖質と違い、脂肪酸アミノ酸を燃やすと、いわば不完全燃焼になって、余計な燃えカスが残る。それがケトン体で、体内に増えすぎると神経症状や昏睡などを起こす「ケトーシス」という症状をおこす。尿中のケトン体が多いのは、体内に多いということになる。糖尿病の人などは、ケトン体がふえすぎないよう警戒する目的で、定期的に尿中のケトン体を測定する。尿中ケトン体の検査結果からすると、森さんは警戒すべき状態ということになるが、実際には何の不調もなく、ケトーシスと呼ばれるような症状もない。


一般に、「脳はブドウ糖以外のエネルギー源は使えない」とよく言われるが、アメリカの研究では、ブドウ糖が不足・欠乏しているときには、ケトン体であるアセト酢酸やベータヒドロキシ酪酸が、脳のエネルギー源として使われることが報告されている。(この本では触れられていないが、最近注目されている「糖質制限食」という食事法は、いわゆる炭水化物や糖質を取らないため、糖尿病の人にとっては血糖値があがらない食事となり、はじめたその日からインスリン注射をやめることすら可能ともいえる。糖質制限食をすすめる医師たちは皆、炭水化物に含まれる糖質がなくても脳障害はおきないし、肝臓において糖新生が行われるので体内にブドウ糖がなくなってしまうようなことはないという。自身も糖尿病患者である江部医師のブログの説明がわかりやすい。江部氏はたしかブログの中でケトン体が増えること自体は問題ではないと言っていたような気がする。)


私の父が糖尿病患者であったり、以前インスリンの開発・販売をする製薬会社で働いていたこともあり、糖尿病にはすごく関心がある。「糖質制限食」は最近レシピの本も豊富で、ダイエットのために実践している人も多い。簡単にいえば、「主食を抜くだけ」の食事法だ。白いごはん、白いパン、白い麺など食後に急激に血糖値を上げるものを断つことになり、そのメリットはすごく大きいと思う。糖尿病でない人にとっても精製された小麦、コメは摂らない方が良い食品なのでその点はよいとして、私が糖質制限食に疑問を持つのは「糖分」を理由にニンジンを始めとする栄養価の高い野菜や多くの果物をNGとし、糖質が少ないという理由で肉も魚もOKとする点だ。


Ⅱ型糖尿病(いわゆる生活習慣病としての糖尿病。Ⅰ型糖尿病はウィルスが原因とされる全く別の病気。)の人の多くは、発症するまでは普通に好きなものを食べていただろう。「主食」をカットするとなれば、その分「おかず」をしっかり食べたくなるのは当然だろうし、動物性たんぱく質ばかりを食べてしまう食事になりやすいのではないだろうか。確かに血糖値はあがらず、糖尿病自体の進行は遅らせたり、合併症を予防することにはなるかもしれない。が、長年続けることによって別の病気を呼び起こすことになるのではないかと思ってしまう。血糖値が200を超えると血管にダメージが出やすく、心臓疾患にもつながるというのは説得力があるが、玄米なども炊いて食べるから血糖値があがるのであって、生の状態で玄米粉などにして食べると急激な血糖値の上昇にもならず、栄養的にも生の玄米の方が良いらしい。


森さんが1日に1杯の青汁で元気なのは、野菜が「まだ生きているもの」で、それを生命力のあるうちにいただいているからではないかと思う。玄米も水につけて3日ほどすると芽が出て発芽玄米になるときいて、やってみたら本当にちょうど3日で芽が出てすごく感動した。「3日たつと芽が出る」プログラミングがされているのか、なんなのか良くわからないが、どの芽も小さなくちばしみたいで可愛くて「生きてるんだなぁ」としみじみ感じた。「生きているもの」をできるだけ熱を加えずに食べることがいいのかもしれない。