Meooow!
戸越銀座の保護猫カフェ「Meooow!」さんに行ってきた。
メンバーは、私と、毎度お馴染み、猫カフェ荒らしのSさん、そして、同じ職場のミユさん(初登場)である。
いずれは職場の皆さんにも声をかけるつもりで、Sさんと二人「下見」に行く相談をしていたところ、たまたま近くにいたミユさんが興味を示したので、
「一緒に行きますか?」
と、お誘いしてみたら、是非…ということになった。
そして、先週の土曜日。
生憎の雨である。
戸越銀座の改札外で待ち合わせているうちに、ぽつぽつと降り出した。
「さすがは私です。」
雨女のSさんは自慢気にうそぶくが、その割に傘を忘れてきた辺りが、詰めが甘いと言うか。
「もっと自分に自信を持つべきだったわね。」
と、私は冷たく突き放したのだが、ミユさんが優しく傘をさしかけてあげていた。
で。
戸越銀座商店街の途中を右手に折れて、そこから先は、住宅街へと進む。
ちなみに、その右折ポイントの近くに、有名なからあげ屋さん「渓」があるはずである。
「からあげ買う。」
と、私が言うと、
「そんなことしたら、猫さんたちが寄ってきちゃいますよ。」
「いや、その場で食べちゃってから行くから。持って行くわけじゃないよ。」
でも、確実に匂いはつくよね。
あ、でも、これって、考えようによっては、いい作戦かも。
と思ったのに、なぜかお店が見つからなかった。
ホームページの略地図に従い、何度か道を曲がって、もう目的地にほど近い交差点。曲がり角の目印は「そば屋」となっている。
「あそこかしら。」
「それっぽいお店が見えますね。」
地図によれば、そば屋は道の向こう側なのだが、こちら側にも飲食店らしき店がある。その名も「津軽海峡」。
「ここ、やってるのかな。」
入口の扉は固く閉ざされ、中の様子は全く窺い知れない。
「飲み屋さんって感じかしらね。」
「それにしても、いいネーミングだわ。」
もう閉めてしまった店なのか、夜になると営業する店なのか分からないが、入口周辺に無造作に茂る、手入れをしているんだかいないんだか分からない感じの植栽と、昭和な看板が醸し出す演歌っぽい雰囲気が、いかにも「津軽海峡」的で素晴らしい。写真を撮りたかったが、今は一般の民家なのかもしれないのでやめた。
(窓の外のキャットウォーク。室内側から撮影)
そして、目的地に至る。
「あ、こんなところで営業してる。」
何と、窓の外側に狭いキャットウォークをつけ、金属製ネットで箱型に囲ってベランダふうに造ってある。まだ雨が小降りだったので、白黒の猫が二匹、そのベランダで営業活動に勤しんでいた。
店内には、すでに先客が三人。
小さなお店なので、外からその様子が見えると、ああ繁盛しているんだな、と思う。
ここに三人も加わったら狭いかしら?と、一瞬、断られることを危惧したが、快く招じ入れてもらえた。
まずは、窓際の机で、入店の書類に記名し、禁止事項に同意することを誓約する。
記名した書類を手渡すと、
「あら、猫山さんですか。Hです。」
何と、安暖邸時代に親しくなった(はずの)、私が内心、会えることを期待していたボラさんであった。
顔を覚えているつもりだったのに、申し訳ない気持ちになったが、まあそこは、お互いさまということで。
いずれにしても、一気に話し易くなったので、いろいろ訊いてみると、まだボランティアさんの人数が足りず、人のやり繰りが大変らしい。
「なので、私はほとんど毎日来てます。」
大変だなあ。
もうちょっと近ければ、お手伝いしたいのだけど。(という気持ちはあるが、冷静に考えると、私の場合、そもそも猫の顔を覚えられないし、投薬や点眼・点鼻が下手なので、どのみち、多分、無理だろう。)
ただ、安暖邸より店舗が少し小さい分、猫の数も少なめなので、いくらか楽にはなっているのだろうか。だったら良いのだが。
店の造作は、何か手作り感といったものが随所に感じられ、好感が持てた。
まず、天井のキャットウォーク。
真偽のほどは明らかではないが、この店舗自体、元は町工場であったところを改装したものだと聞いたことがある。もしそれが本当なら、このキャットウォークは、その町工場の「遺構」を上手に利用した、ということだろうか。素敵な発想の転換である。
そして、壁。
コルク風の壁材が、一面に貼られている。
「爪を研げるようにですかね。」
「研がれても困らないようにじゃない?」
壁そのものもには、特に爪研ぎの後は見当たらなかったが、研がないということなのか、研いでも目立たないということなのかは明らかではない。
仮に、爪研ぎには全く関係がなかったとしても、この壁の色合いと質感が、店全体の雰囲気に、優しい温かみを添えている。写真映えもすると思った。
そして、その同じ素材で作られた、ボックス式のキャットタワー。
カラフルなバンドで結束してあるのは、ほどけば組み替えが可能、ということらしい。Hさんが説明してくれた。
「でも、まだ、怖いんで、はずしたことないですけどね。」
とは言っても、結束バンド自体は、普通の荷物用のものらしい。素人でも組み替え可能なのだ。うーん、ウチにも欲しい。
ちなみに、猫が出入りする丸い穴は、縁が完璧なツルツルに仕上げてあった。
入口部分は、構造上、二重ドアを設置することが難しかったらしい。窓の外の「ベランダ」と同様、金属ネットで工夫してあった。
見た目はいかにも華奢で、これで大丈夫なのかな?という印象も受けるが、よく見ると、結構念入りに、ビスで留めてある。頭上まで覆われているので、ドアを開放しない限り、これを突破する猫は、まずいないだろう。
ついでに、その金属ネットの天井部分が、猫にとっては、キャットウォークへ上がるための足掛かりになっているらしかった。
全体に、よく工夫して造ったな、という感じ。
ある意味、一般家庭っぽいというのか、この工夫、我が家でも応用できるよね、と、思わせるところが、このお店のツボなのかもしれない。
で。
肝心の猫である。
「このところ、続けざまに四匹、トライアルが決まりまして。」
Hさんが嬉しそうにおっしゃる。
ちなみに、その後、「蝶ちゃん」もトライアルが決まったらしいので、その日いた猫のうち、五匹がトライアルに出ることになる。十八匹中五匹が入れ替わるのだから、一ヶ月後には、雰囲気はずいぶん変わるはずだ。
「今は白黒率、高いですね。」
「最初はキジばっかりだったんですよ。地味ですよね。ゆきお(茶白)がいないと、何だかモノトーンで。」
白猫のLoloちゃん、茶白のかいなちゃんはトライアル予定。ミケちゃんは大人しくて、隅っこに隠れがちだし。
「今度は、色味のある子をお願いしようかな、なんて。」
ま、確かに、ね。
見た目が地味なのもあるけど、それより、一見さんには、キジ猫は見分けがつかない、という問題もあるんだよね。
それでも、二時間滞在するうちに、黒白もキジも、何となく見分けがつくようになってきた。
まずは、白黒猫のルアンちゃん。
「ねえ、この子、さっきからミユさんにくっつきっぱなしじゃない?」
可愛い可愛いルアンちゃん。いつの間にかさりげなく、ミユさんの膝や腰に体をくっつけてくつろいでいるのだ。
あまりに静かな甘え方なので、ミユさん以外の人は、しばらく気付いていなかった。
ついでに、ミユさんも物静かな方なので、その辺りで相性が良かったのかもしれない。
「ミユさん、猫にモテるんだね。いいなあ。」
Sさんと私は、思わず羨望の言葉を口にする。
「うちは、夫婦で猫カフェに行くと、確実に私より夫の方がモテますよ。」
「私は基本、猫に嫌われるんだよね。構い過ぎるから。好かれるのはじぶんちの猫だけ。」
ミユさんはフォローに困り、ただ照れたように微笑んでいたが、私は確信した。この人は、私の友人こっこと同じ、血中またたび濃度の高い人種なのだ。
そして。
ルアンちゃん。
このオンナ、実はけっこう、したたか女子だったりして。
「ミユさん、ご主人連れて来れば?ルアンちゃんにメロメロになっちゃうかもよ。」
ミユさんはさらに困ったように微笑んでいたが、否定はしなかった。
そして。
キジ猫代表は、もちろんこのお方。
「あわびちゃん」である。
途中、ボラさんが「ちゅーる」を配ってくれたので、おやつタイムとなった。
あわびちゃんは気付かずに寝ていたので、私が彼女の顔の近くにちゅーるを持って行くと、目を覚まして食べ始めた。
そのお顔が、最高。
まずは、普通の猫の食べ方。
(ルアンちゃん)
(ナルくん)
(ミケちゃん)
そして、あわびちゃん。
美味しいものを食べているのに、何故にそのコワイ顔。
ああ、これが噂の「悪あわび」。
これが見たかったのよ。来て良かった!!
やがて、おやつタイムが終わり、再び寝に入ったあわびちゃんを、調子に乗って撫でていると、
写真では分からないが、このとき、彼女のしっぽは、ぱたんぱたんとクッションに打ちつけられていた。
目が完全に怒っている。
猫の本気嫌がりモードである。
いやあ、久しぶりに、姐さん猫に本気怒りされた。実家初代のジン子姐さん以来である。シビレるなあ。
素晴らしい。あわびちゃん、猫の中の猫!!
「まだ甘口の猫が多い」とお嘆きの貴兄に、辛口のあわびちゃんを、ぜひともお勧めしたい。
こうして、たっぷり二時間遊んで、お暇させていただくことにした。
料金は千八百円。(最初の一時間が千円。以後、十五分ごとに二百円。)
お土産にポストカードを一枚ずついただいた。
雨はまだ降っていた。
夕御飯を食べて帰ろうという約束だったので、戸越銀座商店街に戻り、ルートマップにも載っていた洋食屋さん「陶花」に入った。
よいお店であった。
ザ・洋食屋、である。メニューも、お味も、お店の雰囲気も。
フロアの担当が、コック服を着た年配の女性であった辺りも。
私は、定番のハンバーグを食べたのだが、鉄板の上でジュージュー音を立てているハンバーグは、きちんとナツメグ(もしくはオールスパイス)の香りがした。
付け合わせの野菜も美味しい。
Sさんのオムライスも、たまごがふわとろで、
(あ、自分もこれにすれば良かった…)
と、思わせる出来栄えであった。
食事をし、コーヒーを飲んで、さて帰ろうかと、店を出て歩きだすと、
「あれ、何かいい匂い。」
何と。
すぐそこに、さきほど見付からなかった、からあげ屋「渓」さんがあるではないか。
「さっきは、開いてなかったんですね、多分。」
「匂いしなかったもんね。」
さすが人気店。雨にもかかわらず、出来上がりを待っているお客さんの姿がちらほら。
「猫山さん、買って行かなくていいんですか?」
「ううう、いい。今買っても冷めちゃうし。」
返す返すも、残念である。
まさかここで、リベンジを誓わされる羽目になるとは思わなかった。
(「陶花」のオムライス。Sさん撮影)
私達の「Meooow!」さん第一回訪問記は、これで終わりである。
一週間経って、感想を述べるとすると。
親しい人と遊びに行くには、とても良い所だと思った。
何と言っても、戸越銀座商店街が楽しい。
入ってみたいお店がたくさんあった。お店に入って食事するもよし、買い食いするもよし。
猫カフェの方は、その時々で在籍する猫が違うから、その人の猫の好みにより多少印象が変わってくるかもしれないが、全体に、リトルキャッツブランドらしく人懐っこい子が多いし、店全体の雰囲気もアットホームで落ち着ける。
ただし、店舗自体が小さいので、二組・三組と客が入っている時は、他のグループとの距離は保てない。その中で猫たちを共有するわけだから、他のお客さんとは一切関わり合いになりたくないという方は、もっと広い猫カフェに行くか、空いている時間帯を狙った方がいい。とはいえ、別に、他のグループのお客さんと一緒に遊ばなければならない雰囲気があるわけでもないし、常連さん同士の「内輪ウケ」みたいな排他的なムードがあるわけでもないから、よほど人嫌いでなければ、気になるほどではないだろう。
一人で来ているお客さんも何人かいたが、普通に猫と遊び、ボラさんと話をして、居心地良く落ち着いているように見受けられた。
ついでに言えば、猫の数が多くないので、目立つ猫や、遊びたがる猫の名前はすぐに覚えられる。事前にホームページを見ていないミユさんも、しばらく遊んでいるうちに、猫たちを名前で呼び始めた。猫の名前が分かると、やはり親近感が生まれ、周囲の人たち(ボラさんや他のお客さん)とも、微かな仲間意識が生じるものなのである。
さあ、これから猫を飼うぞ!猫を探すぞ!という方だったら、まずは猫の数が多い、他の猫カフェを色々覗いてみた方がいいかもしれない。だが、とりあえず猫と過ごす時間を楽しんでから考えたいという方には、うってつけのお店である。
どこかのサイトに、「デート向き」という感想が載ったらしく、カップルでの来店も多いと聞く。頷けるものがある。静かで穴場っぽいし、猫は可愛いし、お店を出たら、戸越銀座でお茶や食事も楽しめるし。
オムライスに舌鼓を打ちつつ、感想を述べ合う中で、彼女のお気に入りの猫の名を挙げて、
「どうだろう。○○ちゃんを、二人で育てないか?」
なんていう、ガチなプロポーズとか――さすがに、それはないか。
ちなみに。
「津軽海峡」であるが、帰り道にも、とくに営業している様子はなかった。
が。
およそ十年前には、もっと凄い外観であったらしいことが判明した。何が凄いって、あの植栽の茂り方が、である。
「津軽海峡」が営業しているのか知りたくて調べているうちにたまたま見つけたのだが、「有限会社 明るい部屋」さん(植物を用いた空間装飾やフラワーアレンジなどをやっている会社さんらしい)のサイト内、「植物建築図鑑」という、もう更新されていないブログ(?)に、二〇〇七年十月撮影の、「津軽海峡」の写真が掲載されている。
店の名前と、「品川区荏原」という地名、また、両隣の建物の外観から、同じ建物と考えて間違いはないと思う。なかなか迫力の写真である。リンクを貼れないのが残念でならない。
なお、この「植物建築図鑑」、「明るい部屋」さんのトップページからはおそらく見つけることはできない。すでに更新が止まり放置されたものであるようだから仕方がないが、写真も文章も面白いのに、もったいないなと思う。
見たい方は、お手数ですが、「津軽海峡 品川区」か、「ダイダラボッチの家」で検索してみてください。