vol.5 志賀育恵(東京シティ・バレエ団)

現在、東京のバレエ・シーンにおいて活躍するプリマのなかで大きく注目されるひとりが志賀育恵(しが いくえ/東京シティ・バレエ団)です。評論活動を始める以前から東京シティ・バレエ団の公演には通っていましたが、志賀の踊りをみるのはいつも至福のひとときでした。何よりもラインが美しい。軸がしっかりしたうえで肩、背中、腰の使い方が実にしなやかで、彼女が舞うと、スッと周りの空間が拓けるかのよう。じつに爽快。踊る喜びがひしひしと感じられます。技術も精確なうえ、チャーミングな雰囲気も素敵。『コッペリア』のスワニルダ役はよくハマり最大の当たり役です。東京シティ・バレエ団は江東区と芸術提携を結び、地域に根ざした活動を続け、数ある在京バレエ団のなかでもいい意味で庶民的。質高いバレエを気軽にみせてくれるカンパニーとして独自の存在感を放っています。志賀はその中心として広く観客にも愛される存在でしょう。
略歴を記しましょう。福岡出身で7歳より小沼バレエアートにてバレエを始め、その後、名指導者として知られる田中千賀子に師事。ちなみに志賀と同世代で田中に習った人には息女の田中ルリ、貞松・浜田バレエ団の吉田朱里、ベルリン国立バレエ/Kバレエカンパニーの中村祥子ら一流どころが揃っています。1998年に東京シティ・バレエ団入団。その年から『くるみ割り人形』クララを踊り、2001年には『シンデレラ』にて古典全幕初主演。『コッペリア』『白鳥の湖』『ジゼル』等でも主演し、『真夏の夜の夢』ではハーミア役を好演するなど力をつけていきます。ボルテージの高い仕事をしたのが2006年。『カルメン』のタイトルロール、『白鳥の湖』オデット/オディール役に加え、野坂公夫振付のモダン『曲舞』に主演し、幅広い芸域を安定した技量で踊り「オン・ステージ新聞」新人舞踊家ベスト1などに選ばれました。志賀が大きく飛躍していったこれらの舞台について評・記事を書く幸運が重なったこともあり(依頼原稿しか書いたことがないため偶然が重なっただけですが・・・)、常に動向が気になっている踊り手です。
2007年夏から1年は文化庁在外研修員としてオーストラリア研修(オーストラリア・バレエ団)を行い、年間100ステージを超える舞台に出演してバランシン作品等も踊ったとか。帰国後も、2007年に加入した橘るみとともにバレエ団の看板プリマとして活躍しています。2009年には新制作された『ロミオとジュリエット』に主演しました。この舞台を観られなかったのは痛恨でしたが、好評を得たようで何より。2010年は2月に『カルメン』の再演が行われ主演が決定。舞台を現代に移した異色物語バレエであり、志賀のドラマティックな資質の更なる開花を楽しみに。7月『白鳥の湖』、12月『くるみ割り人形』のほか5月に行われる「ラフィネ・バレエコンサート」でも創作/コンテンポラリー作品の意欲作等が並びますので、そちらでも志賀の活躍を期待できそう。上半身の使い方が綺麗な踊りの魅力に加え、表現力・演技力のさらなる進化が加われば怖いものなし。一層の飛躍を心待ちにしたいところ。志賀にとっても勝負の年、一段とスケールと風格を増して大プリマになってもらいたいものです。よい結果を期待しましょう。


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公演予告 東京シティ・バレエ団『カルメン』全2幕 (動画予告編付)
http://www.kk-video.co.jp/schedule/2010/0206t_city/index.html


Clara 2009年08月号 特集 FEATURES巻頭対談 志賀育恵×キム・ボヨン

Clara (クララ) 2009年 08月号 [雑誌]

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関連LINK

志賀育恵 オフィシャルWEBサイト「IKUE GARDEN」
http://www.ikue-garden.net/
東京シティ・バレエ団
http://www.tokyocityballet.org/

今後の出演予定舞台

芸術文化振興基金助成事業・2010都民芸術フェスティバル参加公演
東京シティ・バレエ団『カルメン』(全2幕)
●2010年2月6日18:30、7日14:00/新国立劇場中劇場
【主演】カルメン役(6日)、共演は黄凱。