牛次郎(原作)/赤石路代(漫画)『燃えてMIKO』

燃えてMIKO (1) (小学館文庫)

燃えてMIKO (1) (小学館文庫)

連載:『別冊少女コミック』(1981〜1982年)
単行本:小学館フラワーコミックス(1982〜1983年) 全4巻
    小学館文庫コミック版(2005年) 全2巻


 『アルペンローゼ』(1985年にアニメ化)や『P.A.』(1998年にドラマ化)などで有名な小学館の看板作家・赤石路代の初の長期連載作品。作者は現在は『Flowers』にて『AMAKUSA1637』を、『Judy』にて『市長 遠山京香』を連載中。原作者の牛次郎は『包丁人味平』や『プラレス三四郎』などが有名で、作家としても活躍したが、現在は出家し、静岡県伊東市に自ら設計した願行寺(臨済宗)の管長兼住職を務める。
 庭にテニスコートのある大豪邸に住み、テニス選手を目指していた父親の指導によって英才教育を受けてきた高校一年生の主人公・五代美湖(みこ)が、恋とテニスの両立に悩みながら、人として、テニス選手として成長していく、という物語。彼女のコーチ役を務める日向達也、後輩の遠藤満、ライバルとなる九鬼麻子(くき・あさこ)と堺麻也(さかい・まや)、そして物語後半から登場する桂木遼一といった面々を相手に、テニス/恋愛の両面での彼女の苦悩と、それを乗り越えていく様子が描かれている。
 テニス漫画としては、愛らしく繊細な少女達と、彼女達が織り成す魔球「クランクサーブ」や暴力テニス合戦といった少年漫画顔負けの展開が、実に不思議な空気を造り出している。まさに、牛次郎赤石路代という異色のコラボレーションが生み出した本作品独自の魅力と言えよう。
 ただ、もう一つの軸である筈の恋愛話が、どうも今一つ中途半端な印象を受ける。主人公を初めとする登場人物達の心情の変化の描写がやや淡白で、彼女等の恋愛感情の動向が今一つ掴みにくい。特に、後半における“伯爵婦人”の異名を持つ部長の大庭琴音(おおば・ことね)の過去のエピソード、および最重要人物一人である桂木の登場のくだりは、もう少しじっくりと描いてくれた方が、読者としても感情移入しやすかったと思う。
 とはいえ、物語全体のテンポは良いし、読み出した読者をそのまま作品内世界に引きずり込むだけのパワーのある作品ではある。近年になってようやく文庫化し、気軽に読める状態になったので、興味のある人はぜひ手に取ってみるのが良かろう。