書き慣れた人によくあるタイプの悪文

 前回は初回なので、一読して意味が取れないほどの、インパクトが強い悪文を選んだ。今回は逆にそれほどでもない悪文を見てみよう。


 今回の悪文はid:mujin氏のブログ「こりゃ、ほたえな」から引用させていただいた。ちなみに対象となったのは言葉の誤用に関するエントリだが、内容とは関係がない。


汚名挽回」という言い方は間違っている、とする主張の根拠が分からない - こりゃ、ほたえな
http://yunishio.hateblo.jp/entry/2013/02/10/205234


■今日の悪文

オレ自身がこの言葉をつかう機会はいままでなかったのですが、他のブログなどでこの言いまわしを使ったところ、コメント欄で「汚名は挽回するものでなく返上するものだから、その言い方は間違っている」と指摘されているという場面にたびたび出くわします。

 どうだろうか。今回の文は、特にひっかかりなく読める人が多いと思う。しかしこの文章は、新聞や堅めの雑誌に掲載しようとすると、校正で撥ねられるたぐいの文章なのだ。

 どこが問題なのか、部分ごとに見ていこう。

オレ自身がこの言葉をつかう機会はいままでなかったのですが、他のブログなどでこの言いまわしを使ったところ、

 ひとつめの句読点を挟んで、文の主体が入れ替わっていることがわかるだろうか。句読点の前の文では「オレ」が主体だ。後の文では主語が省略されている。補足すると下のような形になる。

オレ自身がこの言葉をつかう機会はいままでなかったのですが、他のブログなどで(ブログ主が)この言いまわしを(記事中に)使ったところ

 文脈から自明であるために、後ろの文の主語が省略されている。

 続く部分を見てみよう。

コメント欄で「汚名は挽回するものでなく返上するものだから、その言い方は間違っている」と指摘されているという場面にたびたび出くわします。

 「コメント欄で指摘されている」のは、省略された主語である「(ブログ主)」だ。そして、「〜という場面にたびたび出くわす」のは、「オレ」のはずだ。ここでも主体の入れ替わりが起こっている。

 全体で見ると、この文章は下の三つの内容を組み合わせた文になる。


・オレ自身がこの言葉を使う機会はいままでなかった。
・他のブログがこの言葉を使って指摘を受けた。
・そういう場面を(オレが)たびたび見た。


 よほど考えないと、入れ子構造の文章を整えて書くのは難しい。私のところにも、原稿執筆者からこういう文章がよく届く。そうした原稿に手を加えず校正に回すと、赤字で「?」とか書かれて戻されるのだ。

 こうした文章を整理するのは、そのままでも意味が取れるだけに、面倒な作業と感じられる。けれど、こうした文章の積み重ねが本の読みにくさを生み、全体として「この著者の文章は読みにくい」という評判につながってしまうかもしれないと考えると、編集としては直さずにいられない。この文も例によって書き直してみよう。

ブログでこの言葉が使われると、「汚名は挽回するものでなく返上するものだから、その言い方は間違っている」という指摘が高い確率でコメント欄に書かれます。オレ自身がブログで使う機会はいままでありませんでしたが、こうした場面にはよく出くわします。

 字数を保つならこの形だろうか。細かいところだが、「つかう」と「使う」の併用は意図的なものでないと判断して閉じる形で統一し、「なかったのですが」は「ありませんでしたが」に変えた。


 悪文は、正解か不正解かという二元論で語れない。意味が十分に通る悪文だってある。完璧な日本語というのは、完璧なカレーというのと同じようなもので、想像上の存在に過ぎない。食える程度のカレーなら、大概の人が作れるが、完璧なカレーは、世界一のシェフでも作れない。


 最後に、今回悪文の出典として取り上げさせていただいた「こりゃ、ほたえな」のmujin氏に感謝するとともに、mujin氏の名誉のために、あくまで今回は多くの文章の中からたまたま悪文を取り上げただけだと断っておきたい。mujin氏の文章が全体として悪文というわけではない。誰もがときには悪文を書くのだ。