ココロコネクト プレシャスタイム

内容(「BOOK」データベースより)
「化学反応を起こすのよ!」三年に進級した藤島麻衣子が開催したのは、学校全体を巻き込んだ一大イベント!文研部員同士をも激突させた闘いと、藤島の隠された思惑が錯綜する波乱のカップルバトルロイヤルから、部長に千尋、副部長に紫乃が就任した文研部の、悪戦苦闘の新入生勧誘活動、莉奈の『お兄ちゃんの友達チェック』に、卒業を目前に永瀬伊織が振り返る高校生活まで。愛と青春の五角形コメディ、美味しいところを凝縮したココロコレクト第3弾!

 これでこのシリーズもラスト!短編集。<ふうせんかずら>の出てこない、日常の短編なので、読んでいて精神が磨耗せず楽に読めるのは最後にシリーズの登場人物のキャラクターだけを楽しめていいね。
 最初の短編である「わたしだけのお兄ちゃん」を除いて、太一たちが三年生になった後、つまり本編の後の話。
 冒頭の「わたしだけのお兄ちゃん」は太一の妹視点での話で、以前に特典の小冊子に掲載されていた短編。冒頭のカラーで妹のイラストが描かれているが太一の妹莉奈は太一がシスコンなのもわかってしまうほど可愛いな。思ったよりもずっと可愛くてびっくりした。しかし太一は部活の面々が家に来るのに、妹にそのことを言っていないのは流石に不味いだろう、それは妹も怒るわと思っていたら、妹が聞き流していただけかい。
 『「何の心配をしてるんだよ……」/と言いつつもお兄ちゃんはほのかに嬉しそうだ。おそらく頭の中で『いつも可愛いけど特別可愛い妹の姿を見られて眼福だな!』とでも考えているのだろう』(P10)という莉奈の推測は当たっていないと思いたいが、太一は結構なシスコンだから考えるほどに、眼福なんて言葉を使っているかはともかく、そんなこと思っていても不思議でないと思ってしまうなあ(笑)。
 そして稲葉のことは口では稲葉さんといっているけど、心の中ではイナバと呼び捨てにしているなど、この子もなかなかのブラコンだなあ。部屋に菓子を持っていったときに気づかれなくて、アセアセしている挿絵も可愛いなあ。しかし調子のよさが彼女のキャラなのかもしれないけど、彼氏が居るのに千尋に「将来高い年収を得るご予定は?」なんて聞いちゃうのはどうよ(笑)。
 しかし唯、いくら莉奈が可愛いからといって『ふう、落ち着けあたし。確かに莉奈ちゃんは可愛いけど、確かに今ここに居るのは二人だけど、確かに今はチャンスだけど!でも……あたしにも理性が……』(P32)なんてことを本人を目の前にして口に出して懊悩しているのは、かなり危ない人やん(笑)。
 「カップルバトルロイヤル」と「未来へ」に生徒会長の香取が登場しているが、敵に回らなければ実に好感のもてるいい人だなあと、このキャラの魅力をここではじめて知る、敵側にいるとどうしても正当な評価ができなくなるからなあ。しかし小説でもそうした体験をすると実際の歴史とかでも敵へ的確な評価ができていないというのはリアルだし、普通にあるなんだと不思議と腑に落ちた。
 「カップルバトルロイヤル」渡瀬が藤島に「渡瀬君は破天荒じゃないわよね」といわれたことで、「俺には……破天荒さが足りていない……」と、よく分からないところで反応して、頭を抱えて懊悩しているのは笑える。
 藤島がカップルバトルロワイヤル(互いに合意の上で、互いに好きなルールを定めて、最初に一つずつ持っている花を総取りの勝負をする)という企画を開催するのに尽力して、自分がそれに出るパートナーを決めていなかったことにイベント当日に気づいて吃驚しているのは、藤島は案外抜けているのねと思わず微笑みが浮かぶ。
 「今!また『稲葉』って言いかけてた!姫子って呼ぶ約束!」(P68)なんだこの可愛い生き物は!稲葉は普段のクールさとのギャップがあるから破壊力高いわ。
 そのカップルバトルロワイヤル内のエキシビションみたいな形で、唯と彼女の中学時代の空手のライバルの千夏との格闘での対決がなされたが、審判の一人を藤島がやっているのは危ないから審判役くらい格闘系の部に所属している人間に任せようよと、その後の壮絶な戦いを繰り広げているのを見るとなおさらそう思う。かなりガチでやりあって、唯がかなり劣勢で一方的に押し込まれているのを見ると、最初は面白そうという気分だったが徐々に引いてしまうなあ。ただでさえ階級差があるのに、思った以上に2年の差は大きく力量差もあるから、一方的な展開になってしまったからなんだかもう止めてといいたい気分になってくる。しかし決め技をシャイニング・ハイキックにしたかったというのもあるのかもしれないけど、素手での顔面攻撃は駄目だけど脚での頭部への攻撃は威力がより強いのにOKな理由がいまいちよく分からない、格闘技には詳しくないがそういうレギュレーションは良くあるものなの?
 そして藤島と渡瀬は、渡瀬の思いが実り無事にカップルになれたようでなにより。
 「新入生よ、大志を抱け」千尋たちの後輩になる人間が語り手となったエピソード。こうした息苦しさを感じるような小説は苦手だなあ。この短編では結局は自分の捉え方だということで終わるけど、それなら個人的にはそうした捉え方で高校生活が描かれるのが苦手ってことだな。
 しかし文研部の2組のカップルが部の見学に来たときの自己紹介でも、いちゃいちゃしているが、それが部活に新入生を入りづらくさせている大きな要因だと思うよ(笑)。だって、どこかのカップルが別れたなら気まずい上に、そうでなくとも部内でのカップルが多くて独り身が少ない部だと中々きついものがありそうだものなあ。
 「未来へ」伊織が語り手の短編。色々悩んでいるが最後にはいい感じにまとまっていて、最後にふさわしい短編だな。
 しかしこうして感想を書いていて気づいたのだが、結局本編の主人公である太一が語り手の短編が最後なのに一編もない(笑)!いや、強いて絶対読みたいとまでは思わないけど(読んでいる最中は気づかなかったくらいだし)、最後なのに主人公が語り手のものがないとわかったら、自分が気づかなかったことも含めて、なんだか笑いがこみ上げてきてしょうがない。