「週刊文春」編集部 2017/11/26 ホロコーストの“真実”をめぐって、女性歴史学者はどう闘ったのか http://bunshun.jp/articles/-/5016

著者は語る 『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』(デボラ・E・リップシュタット 著)


source : 週刊文春 2017年11月30日号

否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』(デボラ・E・リップシュタット 著/山本やよい 訳)


 インタビュールームにリップシュタットが入ると一瞬で空気が明るくなった


「通訳が間に入ると、私のユーモアがうまく発揮できないわ」と笑う歴史学者は、17年前、世界中が注目する世紀の裁判に出廷した。彼女は著書『ホロコーストの真実』の中で、イギリス人歴史学者D・アーヴィング【B】を「ホロコースト否定論者であり、極右派である」と書き、名誉毀損で訴えられたのだ。裁判で勝つには、「ホロコーストは事実だ」と法廷で証明するしかない【A】。かくして、ポーランドでもドイツでもなく、イギリスにおいて「ナチスによる大量虐殺はあったのか」を判断する裁判が行われることになる。


 その経緯を認(したた)めたのが本書『否定と肯定』である。ユダヤ人としての出自、弁護士選びでの逡巡、狂騒するマスコミ、著名映画監督からの金銭的援助のオファー、さらには法廷に立つアーヴィングが着たストライプのスーツ、ランチで弁護士が食べたまずいサンドウィッチの話まで。記述はこれでもかというほど詳細だ。


「解説するのではなく、一連のすべてを書いて、読者に判断して欲しかった」


 詳細な記述が臨場感をもたらし、情景が目に見えるようで、読物として面白い。


 近年、ホロコースト否定に限らず、「歴史修正」や「オルタナティブファクト(事実に対するもうひとつの事実)」を奉じる動きが世界中で見られるようになった。


アメリカ生まれ。ジョージア州モリー大学にて現代ユダヤ史、ホロコースト学を教える教授。主な著書に『ホロコーストの真実 大量虐殺否定者たちの嘘ともくろみ』(恒友出版、1995年)、『アイヒマン裁判』(原題:The Eichmann Trial、2011)がある


「物事を捉えるには『事実』『意見』そして『嘘』の3つの見方があります。例えば、第二次世界大戦があったことは『事実』。そこで大量殺人は起きていないというのがホロコースト否定論者の『意見』。個人的な意見を持つことは自由ですが、事実と混同すると、それは『嘘』になるのです。昨今の歴史修正論者はカギ十字付きの制服を着ません。あたかも羊の皮を着た狼のように。そして、白人優越主義者はおしゃれなプレッピー風ファッションで、『白人のアイデンティティを祝福させてください』などといいます。これを私はエスナショナリズムだと思い、危険に感じています。今後、白人優越主義者が行進するとき、彼らはわかりやすい旗など振らないでしょう」


否定と肯定』は執筆中からすでに映画化のオファーがあったが、いよいよ現実のものとなった。リップシュタット役を演じたのはイギリス人実力派女優レイチェル・ワイズ。映画は、原作の詳細な記述が、よく生かされており、非常にリアルな作品となった。


否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』


2000年に実際に起こった法廷闘争の記録。「ナチスによる大量虐殺はなかった」と主張するイギリス人歴史家アーヴィング【B'】は、ユダヤアメリカ人歴史学者リップシュタットを名誉毀損で訴えた。真実をかけた法廷闘争、緊迫の1779日を描く。映画『否定と肯定』の原作本


(ここまで引用 引用終り)

書誌情報

Amazon「Deborah E. Lipstadt」検索⇒ https://www.amazon.co.jp/gp/aw/s/ref=mw_dp_a_s?field-author=Deborah%20E.%20Lipstadt&i=stripbooks


Lipstadt/山本さつき訳『否定と肯定』ハーパーコリンズジャパン(ハーパーBooks = 文庫), 2017/11/17


ISBN9784-5965-5075-0
否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い (ハーパーBOOKS)



Deborah Lipstadt『Denial: Holocaust History on Trial』[*1]Ecco,2016/9/6


ISBN9780-0626-5965-1
Denial: Holocaust History on Trial



Deborah Lipstadt『Denying the Holocaust: The Growing Assault On Truth And Memory』[*2]Penguin,2016/12/8


ISBN0-1419-8551-8
Denying the Holocaust: The Growing Assault On Truth And Memory



Deborah E. Lipstadt『Beyond Belief: The American Press And The Coming Of The Holocaust, 1933- 1945*3』Touchstone,1993/2/8


ISBN9780-0291-9161-3
Beyond Belief: The American Press And The Coming Of The Holocaust, 1933- 1945




Deborah Lipstadt『History on Trial: My Day in Court with a Holocaust Denier (P.S.)*4』Harper Perennial,2006/4/4


ISBN9780-0605-9377-3

History on Trial: My Day in Court with a Holocaust Denier (P.S.)



Denial [DVD] USA Import
言語: 英語
リージョン:1(米国、カナダ向け ※日本国内(リージョン 2)用のDVDプレーヤーでは再生できません)
画面サイズ: 2.40:1
ディスク枚数:1
販売元: Universal Studios Home Entertainment
発売日: 2017/1/3



(参考)杉原千畝に関するそっけない資料集 id:dempax:19920122


DEBORA LIPSTADT 山本やよい訳『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』ハーパーBOOKS の記述と比較する

*1:ペーパーバック

*2:ペーパーバック

*3:ペーパーバック

*4:ペーパーバック

裁判で勝つには、「ホロコーストは事実だ」と法廷で証明するしかない【A】について


邦訳 p.69 - p.81 「弁護方針」より


【p.80】(引用開始)


戦術が固まっていくなかで わたしたちは何をするかを決めるだけでなく 何をしないかも決めていった. わたしたちの目的はホロコーストが現実に起きたという立証をすることではない それを立証するだけなら法廷は要らない わたしたちに課せられたのはわたしの言葉が真実であるという立証をすること つまり アーヴィングがホロコーストに関して偽りを述べたこと・それが反ユダヤ主義から生まれたことを立証しなくてはならないのだ


(引用終り)


英国の名誉毀損裁判の法廷でリップシュタット等被告弁護団が立証すべき課題は【わたしの言葉( = リップシュタットの著作『ホロコーストの真実 大量虐殺否定者たちの嘘ともくろみ』の記述)が真実であるという立証をすること つまり アーヴィングがホロコーストに関して偽りを述べたこと・それが反ユダヤ主義から生まれたことを立証しなくてはならない】のであって【ホロコーストは事実だ」と法廷で証明すること】ではない


リップシュタットは【否定派と同じ土俵には立たない=否定派を「歴史学の一潮流・少数意見であるかに偽装する」彼等のもくろみに加担しない」】原則的立場に立つから【わたしたちの目的はホロコーストが現実に起きたという立証をすることではない】


同時に 英国の法廷での名誉毀損裁判では被告側が【名誉毀損でないことを立証しなければならない】ことからも要請される


アンソニー・ジュリアス弁護士からの【1】名誉毀損裁判でのアメリカとイギリスの法廷での違い(p.77)および【2】名誉毀損ではないことを立証する法的選択肢(p.78)についての説明を纏めてみよう


邦訳 p.76 - p.81 「法律の講義・英国対合衆国」より抜粋引用



【1】



【2】



【何をするかを決めるだけでなく 何をしないかも決めていった. わたしたちの目的はホロコーストが現実に起きたという立証をすることではない それを立証するだけなら法廷は要らない】


からも


【裁判で勝つには、「ホロコーストは事実だ」と法廷で証明するしかない【A】】


が間違っていることは分かるだろう

【書きかけです】

歴史学者D・アーヴィング【B】について

ホロコーストの真実 大量虐殺否定者の嘘ともくろみ」 以来のリップシュタット読者には自明[*1] 多くの映画 評がリップシュタットの「真実」と「嘘」の相対化(いわゆる「どっちもどっち」)批判を指摘/高く評価している さすがに『文藝春秋』[*2]である 映画 の核芯すら理解できずに書かれた駄文を出鱈目と呼ぶべきだろう

*1:嘘つきの否定者が 仮に歴史学の教育と歴史研究の経験を積んでいたとしても【歴史学者】と呼ぶことは出来ない = しかも「戦記作家」または「ノンフィクションライター」のアーヴィングを何故わざわざ【歴史学者】と呼ぶのだろうか 不思議だ

*2:70年代の南京事件まぼろし化工作〜革新勢力中傷まで 現在の産経の役割を果たした 文藝春秋社は敗戦以前に軍・内務省との癒着があったからだ

関連資料


■【時事通信 最初に試す人がいる=映画「否定と肯定」公開―主人公の米女性教授語る[12/8 07:49]】https://secure.mobile.yahoo.co.jp/p/news/news/view/20171208-00000020-jij-int.html


■【朝日新聞 「フェイクとどう戦うか」11/28】https://mobile.twitter.com/CybershotTad/status/936167646659088385/photo/1



□ cinema tribune 木村草太 http://cinetri.jp/news/


https://miyearnzzlabo.com/archives/46042


■ 「週刊文春」編集部 2017/11/26 ホロコーストの“真実”をめぐって、女性歴史学者はどう闘ったのか http://bunshun.jp/articles/-/5016


■「歴史を否定する人と同じ土俵に乗ってはいけない」〜『否定と肯定』Cinemania Report [#76] 藤えりか http://globe.asahi.com/news/2017120600001.html


■『しんぶん赤旗』2017/11/27 9面【テキスト版 準備中】

参考図書

【映画原作】
デボラ・E・リップシュタット/山本さつき訳『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』(ハーパーBOOKS 文庫)ハーパーコリンズジャパン,2017/11/17


ISBN9784-5965-5075-0
否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い (ハーパーBOOKS)



【アーヴィングが名誉毀損で訴えた『ホロコーストの真実 大量虐殺は否定者の嘘ともくろみ』原著ペーパーバック】


Deborah Lipstadt『Denying the Holocaust: The Growing Assault On Truth And Memory』[*1]Penguin,2016/12/8


ISBN9780-1419-8551-0
Denying the Holocaust: The Growing Assault On Truth And Memory





松浦寛『ユダヤ陰謀説の正体』ちくま新書223/筑摩書房,1999/11 [*2]


ISBN9784-4800-5823-2
ユダヤ陰謀説の正体 (ちくま新書 (223))


松浦寛『ユダヤ陰謀説の正体』ちくま新書(Kindle版) → 直接のLINKを張れないようなので上記『ユダヤ陰謀説の正体』著者名から探して下さい[*3]


松浦寛『日本人の「ユダヤ人観」変遷史』論創社,2016/11


ISBN9784-8460-1490-2
日本人の“ユダヤ人観”変遷史







*1:ペーパーバック

*2:【米国の否定者たちの米国歴史見直し協会IHRの目論見から始まり日本の反ユダヤ主義 つくる会の分析を述べ 否定者たちに我々がどのような対応をすべきかで締め括る 難解な文章のため最初はとっきにくいが馴れてしまえば徹底的な思考が楽しくなる1冊「リップシュタットは英語文献しか使っていないため英独仏語間で改竄が行われていることを見落としている」の指摘はアーヴィング裁判の専門家たちの調査で埋められたでしょう】

*3:書影が「はてなダイアリー言及記事→アマゾン詳細→アマゾン詳細頁」