それから僕らはまた太陽の光を背にして歩き始めた。でも幾ら歩いてもこの街から逃れられないような気がした。街に居る大人がみんな僕らを見て、僕らの不幸に付いて話し合っているような気がした。通行人、買い物客、店の奥の暗闇からレジを打つ手を止めて僕らを注視する幾つもの目も感じられた。僕らは彼らに楽しみの種を与えてるような気がした。懸命に急ぎ足で歩いたけれど、どこまえ歩いても街は終わらなかった。市役所が街の中心地にあるという理由だけじゃない。僕らは好奇の目に捉えられているのだった。
 僕は、ふいに商店のウインドウに僕らの姿が映ったのを見た。ウインドウの中で由紀と目が合った。由紀はすぐさま視線を外した。
「別々に歩こ」
親が離婚した兄妹、それもどちらも連れ子の僕らが一緒に歩くのは不自然だと由紀は言っているのだ。僕も「そうだね」と答えた。
 でもどこまで歩いても、僕らの距離は離れてはくれなかった。無理に別の道を歩いて行くのだが、気付くと同じ道に戻ってきてしまう。僕らは6年間、ずっと一緒に歩いてきたんだ。僕は毎日毎日、由紀に手を引かれこの街の隅々まで歩いてきた。だから僕のあるく先にはいつも由紀がいて、由紀はいつも、何度も僕の方を振り返って僕が来るのを待っていたんだ。
 僕らは歩いた。黙って、ただ歩いていった。歩道と車道を遮るガードレールが細い鉄のポールに変わり、単なる白線になり、ついに境が無くなった。それとともにアスファルトの外側に建物が無くなっていった。無数の枯草に覆われた荒地が、アスファルトの道路を取り囲み始めた。茶色と灰色が入り混じったような枯草は、整列というものを知らないとでも言うように、ばらばらな方向に倒れていた。
 ふと顔を上げると、街の北側に広がる小山が裾野を広げていた。僕らの行く手を阻むようでもあり、僕らを迎え入れているようにも見えた。小山はその中腹辺りに神社を抱いていた。木々の間から神社の建物の一部が覗いているのが見えた。僕らは再び神社に登る運命にあるようだった。僕と由紀は何も言わずただ顔を見合わせて山道の入り口に向った。いつものように由紀が先に歩いた。道路から山道へ入る、その手前にある踏み切りを由紀が渡り終えた時、線路が突然軋んだ。警報機の無い踏み切りの、それが電車が走ってくる知らせだった。僕は慌てて渡ろうとしたが、由紀が
「危ないよ!」
と制した。左手を見ると街の方から走ってきた電車がもう大きな姿を見せていた。仕方なく僕は電車が通り過ぎるのを待った。巨大な車体は僕と由紀の間の空間を猛烈な勢いで走り去った。車両が一つ通過する一瞬、由紀の姿が垣間見えた。由紀は電車が巻き起こす風に髪を浚われながらじっと僕を見ていた。だが、また次の車両がその姿を隠してしまった。3両編成の電車は僕の前から3回由紀の姿を消した。
 電車が通り過ぎてまた僕と由紀は二人きりになった。僕らは振り向き、山門の仁王像を見た。まず右の像を見、それから左の像を見た。しかし彼らはただ黙ったまま何も語らなかった。僕らは山道を駆け上った。神社の境内に向って一息に走った。枯れ木がかさかさを音を立てる以外、まったくの沈黙が支配していた。さっきまで僕らを悩ませた眩しいばかりの太陽の光も、木々の枯葉に覆われたここまでは届かなかった。ただ時折、光の残滓のような輝きが小さな宝石のようにそこかしこに散らばって見えた。
 木々の枯葉が作るトンネルを抜け、急な石段を上がると僕らの目の前に鳥居が姿を表した。そこを潜り抜け僕らは境内に飛び出した。高い木々に囲まれた境内は街中とは別世界のように薄暗かった。木々の外側が明るいだけに一層暗さが強調されたのかもしれない。僕らはそのまま古い社のところまで行くと、木製の階段を上がったところに腰掛けた。しばらくそうしてただ黙ったまま、じっと誰も居ない境内を見詰めていた。
 僕はつい恨み言を言いそうになった。大人たちの身勝手さに、でも誰を責めればいいのか分からなかった。僕はどうしても、マサ兄と母が悪いとは思いたくなかったのだ。
 その時、由紀が何か言った。僕にはよく聞き取れなかった。隣に座る由紀の顔を見ると、カッと目を見開いて境内を見詰めていた。いや、境内にも焦点が合っていなかったような気がする。
「何だって?」
僕がもう一度言うよう訊ねると「・・・ったんだわ」とまたよく聞き取れない声で言った。由紀の声は昨夜以来、音質まで変わってしまった気がする。あれほど響く声が、今は老婆のようにかすれ隣にいても聞き取れないほどだった。
「なに?もっとはっきり言ってよ」
「・・・なったのよ」
「え?」
「叶ったの」
「何?なんだって?」
「だから、願いが叶っちゃったのよ」
僕が首を傾げた瞬間、由紀は僕の両肩を両手で握り僕の身体を前後に揺すった。
「たくみの願いが叶っちゃったのよ!」
ああそうか、と僕は思った。僕は昨日、この神社でやったことを思い出した。

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