糖尿病の食事療法で個人的に思うこと①

ちょっと今更感はあると思いますが、今回は糖尿病療養食のお話しをしたいと思います。当ブログを読んでくださる方も増えてきており、一般の方にもちょっと知ってもらいたいなぁ、というのが動機だったりします。
糖尿病とは、という説明は必要でしょうか?それについてはweb上にいっぱい情報があるし、大まかなところは分かっていただけていると思いますので、ちょっと省略させてもらいます。
■糖尿病の療養食
糖尿病は強化インスリン療法、薬物療法、食事療法とそれらを組み合わせた方法で、血糖コントロールを目標に治療を進めていきます。糖尿病は食事療法の効果が大きい病気であることが知られており、食事療法の種類も幾つかあります。どらねこが言及する食事療法は以下の通りです。

●食品交換表を用いたエネルギー制限食(バランス食)
カーボカウント
糖質制限
●低グライセミックインデックス食

今回は、食品交換表についてチクチクしてみます。
■食品交換表を利用したエネルギ制限食
糖尿病の食事療法に対する一般の印象ってどんなもんだろう。いまだに、エネルギー制限をしたバランス食というイメージかも知れないなぁ。食品交換表を思い浮かべるヒトも居るかも知れない。一般と謂ったけど、医療機関でもまだまだ主流の食事療法かもしれない。
どらねこの手元にある栄養療法の本*1にはこのように書かれています。少し抜き書きします。

【栄養基準】
通常、摂取エネルギー量は標準体重×身体活動量から算出する。
①標準体重の算出
 標準体重(kg)=身長(m)^×22
②摂取エネルギーの算出
a. 軽労作(デスクワークが主な人、主婦など)の場合:標準体重×25〜30(kcal/kg標準体重)
b. 普通の労作(立ち仕事が多い職業)の場合:標準体重×30〜35(kcal/kg標準体重)
c. 重い労作(力仕事の多い職業)の場合:標準体重×35〜(kcal/kg標準体重)
(4)糖質:[エネルギー比50〜60%]とする。ショ糖、果糖などの単純糖質を控え、穀類や芋類などの複合多糖類から摂取する。
(5)食物繊維:[20〜25g/日]とする。
(6)食塩:高血圧の予防、治療から[10g/日以下]とする。

この記述の何が、おかしいの?というはなしだけど、このオカシサを放置したままだった多くの栄養士*2がおかしいと思う。
オカシサ其の1:それ明らかに足りないヒト続出
試しに計算してみよう。どらねこは35歳男性、身長1.68mで運動不足のおっさんだ。なので、軽労作の中間をとって、22.5(kcal/kg標準体重)を採用。標準体重(この言い方はすきくないが)は約62kgとした。
62×22.5=1395
なので、指示栄養量は1400kcalということになるでしょう。
因みにこの1400kcalはこの年齢、体格の方の基礎代謝量とほぼ同じなのね。つまり、何にも運動しないで寝ているだけのエネルギー量だから、普通に生活していては絶対に足りるワケのないエネルギー量なんだ。これには但し書きがあって、性別年齢等によって考慮するとあるのだけど、実際にこの方法で処方されている事例も見たことがあるんだよ。また、女性だったとしても、90%以上の方が不足すると推定されるエネルギー量なんだ。お話しにならないよね?

オカシサ其の2:それ矛盾
糖質を摂るのに、芋類を奨めているけど、芋って食後の高血糖を誘発する食品だぜ。血糖だけに限れば果糖は殆ど血糖を上昇させないのは常識の筈。この後でグライセミックインデックスに言及している文章があるのでちょっとスルーできない。意味分かってるの?

オカシサ其の3:それ無理がある
低エネルギー食と謂うことはボリュームだって少なくなるよね。日本人の食物繊維摂取量は低迷してて、どらねこみたいな中年男性は1日あたり15gほどと考えられる。確かに食物繊維は摂りたいけど実はちょっと難しいんだよね。それが、少ない食事量で20g以上を目指すとなると、ちょっと無理のある献立になっちゃうのよね。それが病院では提供するよう努力がされるわけ。当然ヘンテコなものが出来たり、サプリメントや栄養機能食品に頼ることも・・・。いくら食事療法でも食事は苦行じゃないんだよ。

オカシサ其の4:それ減塩食じゃないから
高血圧の予防や治療を考えるのに、一般と同じ食塩10g/日以下を目標とするのはどうなのかなぁ。エネルギー制限食で考えるのなら、こんな一律10g以下という考え方は通用しない。同じ味付けならボリュームが少ない食事のほうが含まれる食塩の量は少なくなるのがあたりまえだからね。一般食と同じ塩分目標量の低ボリューム食ってしょっぱい食事じゃん。お話しにならない。
過去記事でも述べたけど、日本人の減塩は進んでいないんだ。米食を進める食育に遠慮しているのか、塩分の高い和食に対して問題点を指摘するヒトが少ないことが影響してるんじゃないかと思ってる。今は病院の減塩食は1日6g以下じゃないと加算が付かなくなっちゃったんだけど、本人の特性を考えずに一律同じ量を設定するというのはどうかと思うね。

まぁ、いっぱい悪態をついてきたのだけど、それなりに根拠があるんだ。エネルギー制限食が効果がある人は勿論いると思うし、完全に間違った方法ではないでしょう。でも、それは一部の人であって、万人向けの食事療法ではないと思う。それがいまだ主流であることに問題があると考えるわけですね。

■太っているから糖尿病になるわけじゃない
糖尿病は食べすぎ太りすぎでなる病気というイメージが広がっているように思います。この印象は正しいのでしょうか?
勿論、太り過ぎや食べすぎが切っ掛けとなって糖尿病になるヒトは確かにいますし、大きな原因の1つとは謂えるでしょう。でも、日本人の糖尿病者には太っているヒトが少ないことが知られているんですね。

太ってもいない糖尿病患者が明らかに不足した食事療法を奨められたらどうなるでしょう。もしかしたら血糖コントロールは良くなるかも知れませんが、どんどん痩せていってしまうでしょう。また、元々痩せているヒトは肥満が原因で糖尿病になったわけでないので、エネルギーコントロール食では血糖が改善しない例が多いことが知られています。効果がイマイチのまま痩せてしまった場合どんな不都合があるのでしょうか。


DESIGN: The JPHC Study cohort I, a population-based prospective study in four public health center areas, started in 1990 and was followed-up to the end of 1999.
SUBJECTS: A total of 19 500 men and 21 315 women aged 40 – 59 y who submitted their body weight and height and did not report any serious disease at baseline.

表を見れば一目瞭然、痩せた場合には死亡リスクが高くなる事が知られております。BMI22は生活習慣病の罹患が少ない体型という事で推奨されますが、生活習慣病に罹るリスクを下げるために、死亡リスクが高くなるというのはどんなもんでしょう?どらねこは生きててナンボだと思いますよ。

まぁ、そんな理由でどらねこはエネルギーコントロール食は明らかに太っている糖尿病者や食生活が乱れまくっているヒトへのモデル食として提示するぐらいの利用にしましょうよ、と提案するわけですね。どらねこが提案しなくても、最近はだいぶその流れが大きくなっているようです。ちょっと残念(?)なことにそれが栄養士ではなく患者さんが中心なのですけどね。どらねこ日誌で糖尿病患者さんブロガーの方と色々な遣り取りをした事が思い出されます。本当に勉強になったと共に、栄養士(自分)の勉強不足を痛感しました。
其の流れの中から、カーボカウント法や糖質制限食、低グライセミックインデックス食など様々な食事療法が実際の現場で利用される事が多くなってきました。次回はそれぞれの特徴を簡単に説明し、どらねこの思うことなどを書いてみようと思います。

*1:栄養食事療法必携 第3版 中村丁次編 医歯薬出版.2005

*2:まぁ、2005年版の本を参照しているのだからフェアじゃないと思われるかも知れないけど、次の版はでてないし、実際にこの考えに沿って糖尿病指導や食事が提供されていたりするんだ。そしてこの本で述べるような糖尿病食への批判をあまり耳にしたことがない。