不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

愚行録/愚者は過去を彷徨う


(ネタバレ有り)
 原作未読だが、これは映画の脚本に落とし込むのは結構難儀したのではないだろうか。極端なケースばかりではあるが、人々の感情の澱のようなものをすくい集める物語が、最終的には特殊な個の話として収斂されてしまっているのが勿体無い。長編デビュー作という監督の手腕はなかなかのもので、演出、編集、音響まで細部まで気を利かせているぶん、フレッシュさや一点突破する瞬間がなく、唯一目の前で発せられる暴力に意外性も驚きもなかったのはちと残念だった。
 おそらく映画オリジナルであろう冒頭のシーンで、すぐさまあの映画を思い出したので、まさかそのままこいつが犯人って事はないだろうと見ていたがまさにそのままだったので、ちょっと驚いたし安易すぎやしないかと思った。が、もう少し深く考えてみると、誰もが過去にとらわれ、誰もが勝手な言い分や憶測をする。伝聞情報が寄せ集まって、真実からかけ離れた真実と言われているものができてしまう事をこの映画が描いていたとするなら、あの映画のあの人が真しやかに話をでっち上げたように、彼もまた立場を利用して真しやかに話を――真実をでっち上げているのではないか。真犯人と思える人間一人の凶行とは思えないし、何なら彼が終わった事件を再び掘り出しているのも、別に起きた事件によって真相が発掘されるのを恐れたからではないか。いや、いまなお事件を続けているのかもしれない……。他の編集者の「もう関係者以外、興味ないよ」というセリフが、実は意味深に聞こえてくる。
 黒白二つの光を存分に放つ満島ひかりと、それらを全部吸収する無為の存在・妻夫木聡の対比は見応えあり。妻夫木はどんな役でも、何者にもなれないから、何者にもなれるんだなと再確認。今作では泣きませんでした。
 最後に、どうでもいい事ではあるんだけど、主人公が勤めている『週刊テラス』、中をパラパラめくるシーンで宮崎哲弥の「時々砲弾」のロゴが見えたので、たぶん雑誌の元になったのは『週刊文春』だろう。だが、「テラス」というタイトルといい、中吊りのセンスといい、この週刊誌はきっと売れていないだろうな……。