「おらほのラジオ体操」のCSR的視点と経営的視点

※経営雑誌より、取材記事を転載いたします。

特別企画「被災地からの発信 −支えあう人びとの動きとは」
震災から1年以上が経過した。復旧復興に向け立ち向かうべき課題は未だ多い。だが、「自分たちがやらねば」と震災を乗り越え、行動を始める人々がいる。その動きを追う。

================================

「被災地から笑顔を発信 −石巻弁でラジオ体操を」

「おらほのラジオ体操!」というかけ声とともに始まるラジオ体操がある。石巻弁のかけ声の中、満面の笑顔で体操する姿がインターネット動画で流された。笑顔に「元気をもらった」とその映像が評判になった、おらほのラジオ体操。「被災地から日本中を笑顔にしたい」と発信された映像が、今全国に石巻弁ラジオ体操旋風を巻き起こす。

■自然と顔がほころぶかけ声
「いぢ、に、さん、し」「うでをあげで〜まえへ〜」。日本に住んでいる人ならば、小さな頃から慣れ親しんでいるであろうラジオ体操。「おらほのラジオ体操」は、ラジオ体操のかけ声を石巻地方の方言で録音してある。聞き慣れた曲から発せられる、温かみのある方言。いつもの標準語が聞こえてくるとばかり思っていると、そのギャップにおどろかされ、それが方言であることがわかると、自然と笑顔になる。
「被災地の人たちの健康増進に役立つもので、自然と楽しくなれるものをと考え、ラジオ体操に思いあたった」。おらほのラジオ体操の発案者、マッキャンヘルスケアワールドワイドジャパン(以下、MHWWJ)西根英一氏は言う。
震災直後、医療や健康コミュニケーションに関する広告マーケティング会社であるMHWWJでは、「被災地に対して、自社でできること」の案を主だった社員が持ち寄り検討した。西根氏が提案したのが、おらほのラジオ体操の元となる、「東北弁でラジオ体操をやろう」という案だった。
被災地では避難所での運動不足が問題となっていた。ラジオ体操といえば、日本人の多くが小さい頃から親しんでいるもの。毎朝行うという愛好家も全国にいる。だが、単にラジオ体操をやろうというだけでなく、そこに「被災地ならではのモノ」を付加できないか――。そこで思いついたのが、ラジオ体操を被災地の方言でやることだった。
被災地のモノである「東北弁」と、健康増進活動そのものである「ラジオ体操」の融合。これなら、「健康コミュニケーションを扱っているMHWWJならではの被災地支援になると考えた」(西根氏)

■大反響を呼んだ動画
復興支援の動機とその継続には、被災地のモノに関心を持ってもらうことが欠かせない。「『お国言葉』は日本の心のふるさとのようなもの。これこそ、東北を思う人たちの心に沁み入るものになるだろう」と西根氏は考えた。方言でラジオ体操をやるという発想は、こうして生まれた。
だが、プロジェクトを開始するにあたって、まず問題となったのは、権利関係に関することだった。「ラジオ体操は古くからあるだけに、著作権など権利関係が複雑」。西根氏は、まず全国ラジオ体操連盟に相談し、クリアにすべき権利の問題を洗い出した。2011年4月に提案がなされ、2週間。著作権者をはじめとする関係者に話をし、プロジェクトについて理解を得た。
また、東北弁でやりたいと思っても、肝心の被災地の人たちに賛同してもらえなければ実行に移せない。たまたまMHWWJの社員の中に、被災地に知り合いがいる社員がいた。そこでその社員を通じて話をすると、「石巻の新聞社と一緒にやったらどうか」と石巻日日新聞社の近江弘一社長を紹介された。さらに“ラジオ”体操であるからには、ラジオ局から発信しようと、地元のラジオ局「ラジオ石巻」にも話をし、タッグを組むことになった。
「最初に石巻まで説明に行く時は緊張した」と西根氏は言う。震災のショックから抜け出し、これからがんばっていこうとの気運が高まり始めた7月。西根氏らMHWWJのメンバー3名で、プロジェクトの説明に石巻にある石巻日日新聞社を訪れた。
「東京から、被災地の人が楽しく健康増進するために考えたプロジェクトを持ってきてくれた」。ラジオ石巻で同プロジェクトを担当する今野雅彦氏は、最初にこの話を聞いた時「自分たちもがんばろう」と思ったと言う。

■被災地からみんなを健康に
石巻弁のかけ声は、エフエム仙台のスタジオで録音された。最初の放送は8月12日。収録が終わり音源が完成した当日だった。
ラジオで放送されると、「CDはないの?」と問い合わせが日に日に増えていった。そこで、今野氏たちは手づくりでCDを製作、要望に応えた。
さらに震災から半年後の9月10日、11日にかけて、石巻の市民がラジオ体操をやっている様子を撮影した。「撮影は、事前に連絡をするのでなく、場当たり的に行った」と西根氏は言う。撮影スタッフは石巻市内をめぐり、さまざまな人に声をかけた。
バス停でバスを待っている人、畑仕事を休憩している人、昼食をとったラーメン屋の従業員、公園で遊ぶ子どもたち……。「老若男女、趣旨に賛同いただき、その場で体操をしてもらった」(西根氏)。
プレイヤーのスピーカーから、聞き慣れた音楽とともに石巻弁のかけ声が聞こえる。このラジオ体操の存在を知っている人も知らない人も自分たちが普段使う石巻弁に笑顔を見せながら、ラジオ体操を行った。その映像を編集し、まずはインターネットの動画サイトにアップした。
この動画がきっかけとなり、「おらほのラジオ体操」は国内外で知られるようになった。インターネットでの盛り上がりに、テレビや雑誌などが加わり、次々と取り上げられるようになった。半年もしないうちに、動画再生回数は、10万回を越えた。津波のつめ跡が残る町並みを背景に、満面の笑顔で体操をする人。元気いっぱいに飛び跳ねる子どもたち。「被災地の人の笑顔を見て、勇気付けられた」など、被災地へのエールだけでなく、逆に元気をもらったという意見が続出した。
「『おらほのラジオ体操』で日本中を元気にするのが最終目標」と今野氏は言う。日本だけでなく、世界各地から「やりたい!」という声があがっている。「おらほのラジオ体操」旋風は、いずれ世界中を元気にすることだろう。


「おらほのラジオ体操」を収録したスタジオ。石巻の人はもちろん、震災で元気をなくしてしまった日本中の人たちに、笑顔と元気を贈りたいとしている


動画の撮影は、石巻市のさまざまな場所で行われた。「ほとんどが当日その場で声をかけてやってもらった」(西根氏)と言う

【Organization Profile】
おらほのラジオ体操事務局
宮城県石巻市鋳銭場3-19 秋田屋ビル3F 石巻コミュニティ放送(ラジオ石巻)内0225-96-1010
おらほのラジオ体操・動画: http://www.youtube.com/watch?v=GEI5LxkPi-4
Facebook アカウント: www.facebook.com/orahonoradiotaiso

[西根英一, WizBiz, 2012年5月号, 34-37より一部改変]