ロンリー・ウルフ


1月21日の日記、
”Cinema”by YES その1から3日続きで「私が影響を受けた映画タイトル」を紹介してました。派生タイトルも含めると26タイトルですか。今後は気が向いた時に適当にチョイスして、もう少し突っ込んだレビューを書いていこうかと思います。
とりあえず、今回は2タイトル。レビューを書くのに合わせて、再視聴しています。

「太陽を盗んだ男」

1979年作品。今からちょうど30年前ですね。
私は高校の頃、深夜に放送されていたこの作品を、原稿を書きながら観ていました。作品は途中からでしたし、意識も原稿の方に向いていましたが、所々に魅力を感じていました。で、数年後。大学の時、はっきりと憶えていませんがどこかの小さな映画館で上映されるのを『ぴあ』で知り、出かけていったのでした。


中学で理科を教える城戸誠は、生徒たちからも揶揄される無気力なダメ教師。生徒たちとのバス旅行中に、バスジャックに襲われた彼は、警視庁の山下警部に刺激を受ける。
やがて城戸は、警官から拳銃を奪い、東海村原発に侵入しプルトニウムを強奪。自室で原爆を製造する。
完成した原爆を手に、交渉役に山下警部を指名、城戸の政府への脅迫が始まる。


現在公開中の『ヱヴァ破』で、この作品の音楽が使われている。という訳で、アニメファン界隈で知名度の上がった感がありますが、若年層で実際に観た事のある人は少ないのじゃないか。
公開当時は高い評価を得てヒットした様だし、過去作を含めた邦画の人気アンケート等でも必ず上位に入りこんでくる。
ただ、やはり古い作品であるので、ストーリー的にリアリティの薄い部分や破綻した部分も目に付くし、演出面でも厳しい所がある。そして作品自体が2時間半弱という長尺なので、この作品の色が肌に合わない人には辛いかもしれない。


主役の城戸を演じるのは、当時人気絶頂期の沢田研二。時々男前な表情を魅せる事もあるが、この作品では基本的にダメ男の方向に演技をシフトしている。また、国会議事堂に潜入する時に女装し、脅迫電話時にオカマ言葉を使うのだけど、これらは沢田研二が『ドリフ』に出演した時のギャグイメージが重なってしまう。
同じ時期に松田優作主演の『蘇える金狼』や『野獣死すべし』という作品があるが、松田優作演じる主人公が暴力や欲望などの内なる情念を炎の様に漲らせていたのに対して、沢田研二演じる城戸は冷えきっている。何がしたいという欲も無く、衝動も無い。作品中で感情を出す場面もあるのだけど、それも城戸自身が感情的な自分を演じている様に見える。
家族や友人も恋人も無く、池上季実子演じるDJに対しても女として求める訳でも無く、政府に対しても脅迫するのが目的で、何を要求していいのか自分でわからない。山下警部と交渉の電話をする事と、自分の要求によって政府や警察が振り回される事だけが楽しい。その事が、城戸に初めて生きている事を実感させたのかもしれない。しかし、代償としてプルトニウムの被爆は嘔吐、出血、脱毛と彼の身体を蝕んでいく。


山下警部を演じるのは、菅原文太。この作品の中で一番の存在感と凄みを魅せるキャラ。シュワちゃんレベル以上に死なないキャラは、ギャグと紙一重かもしれない。


猫好きには、少しショッキングなシーンがあります。まぁ伝え聞いた話だと、そのシーンを撮影する時に「絶対に殺すなよ!」と釘を刺したそうなので、リアルに見えてもマタタビクロロホルムなどを使ったのでしょう。
カーチェイスやヘリからのダイブも、この当時としてはかなりレベルの高い映像になっていますね。CGやワイヤーアクションが無かった時代なんですから。


繰り返しになるけど、作品の古さ(演出、ストーリー面)と長さがネックだと思う。そこが誰にでも自信を持ってオススメできない点。でも、ここまでエンターテインメントを感じた邦画もそうは無いです。内容的にも描写的にも現在では撮影できないし、地上波放送も絶対に無理でしょう。リメイクも出来ないでしょうな。してほしくありませんけど。
とにかく、途中で観るの止めちゃっても構わないから、一度観てほしいです。凄いから。

「大阪物語」

沢田研二つながりで。こちらは1999年の作品。ちょうど10年前ですね。
霜月若菜は14歳の少女。彼女の両親は売れない夫婦漫才師のはる美&りゅう介。ある日、父の愛人に子供が出来て離婚する事になった。漫才師は続けたが、愛人も子供を置いて消えてしまう。
父はボソッと尋ねる。「若菜、お父ちゃん、カスか?」「…カスや。搾っても、な〜んも出えへん」いつもの様に軽い気持ちでツッコんだ若菜だったが、父は無言で泣いていた。
翌日、父は失踪する。父を本気で探そうとしない母に代わり、若菜は家を出た…。


主演は池脇千鶴。とにかくこの作品の魅力の大部分を彼女が担っていると言っても過言では無い位。実際、この役で幾つもの新人賞を獲っている。
両親は沢田研二と田中裕子。この2人での売れない夫婦漫才という配役も、なかなか良い味を出している。沢田研二は見た目ユルユルで、ダメな父親っぷりが情けなくて。でも、若菜が父を探す旅の途中で会った人々誰もが、彼の事を本当に嬉しそうに楽しそうに話す。そういう微妙なさじ加減のキャラが上手く出ていたと思います。田中裕子の方は2人に埋もれてしまう感もあるのですが、大阪っぽいボケた面とキッチリした面が要所で見られますね。


監督の市川準氏は、惜しくも昨年他界されてしまいました。元々はCM畑の人で、彼の手掛けたCMの作品リストを見ると、今でも強い印象に残っている物が多い事に驚かされます。
私自身は市川監督の作品で高い評価をするタイトルは少ないのですが、主役級の少女たちの描写と、街並みや風景を撮ったカットは素晴らしいなぁと思いますね。大林宣彦監督の様にCM出身監督の特徴なのかもしれません。
ただ、派手な作品では無いですから、そうした叙情的な部分に魅かれない人には退屈な作品かもしれません。
大阪の街も人も、これは私の偏見が強いのかもしれませんが、イメージした大阪像よりアクが弱く、汚さや雑多感が薄い感じです。
まぁ、カワイイ女の子を観たい人には池脇千鶴を堪能してもらって。ある程度年を重ねている人には沢田研二に哀愁を感じてください。




さて、実は私、沢田研二が好きです。
私が小学生の頃に人気のあった男性アイドルの中で、秀樹やひろみではなく、ずっとジュリー派でした。
今では、懐古的にも現在の活動的にも話題になる事は少ないのですが、一番思い入れがあります。ヴィジュアル系の先駆けとも言えるメイクや衣装に、色気を感じていたんですかね。素直にカッコイイと思っていましたよ。
ドラマでも印象に残る役にイロイロと出ていますね。映画だと『魔界転生』も。リメイク版の天草はジュリーと勝負にすらなりませんよ。
と言う訳で、沢田研二の作品を2本、紹介させていただきました。