青山真治監督『路地へ 中上健次の残したフィルム』

参加者の皆さん、今晩は。

青山真治監督『路地へ 中上健次の残したフィルム』はどうでしたか。彼自身作家であるまだ若い井土紀州が現代の紀州を北から南へ縦断し、新宮市へ、「路地へ」、もうすでに存在しない路地があった町へ車を走らせる。スタイルはヴェンダースを彷彿とさせるロード・ムーヴィーですが、中上健次の世界を独特のタッチで深く描いていました。淡々とした映像、井土の決してうまいとはいえない中上健次の小説の朗読、でしたが、なぜか不思議と、あれ以外にはありえないと、観る者を強く深く納得させるにたる映画でしたね。シュトゥック・ハウゼンや坂本龍一の音楽もまた中上健次が生きた、そして終世「幻視」しつづけた喪われた路地という深い郷愁に彩られた時空間を現在の風景、町並み、立派な舗装道路、紀州の森や太平洋にひらけた海岸等々の映像の向こう側に透かし見させてくれるような素晴らしい効果をあげていました。授業の中でも話しましたが、随所に挿入された中上健次自身が撮影した新宮市のごく日常的な映像もなかり魅力的なものでした。非常に繊細な目、落ち着いた動き、対象へのやわらかい接近の仕方、アングルの正確さ、等々、優れた映像作家にもなれたであろうと想像させるようなフィルムでした。そんな中上健次の「目」を借りて、というか、彼のような眼差しを自分の眼差し、物を見る目の一部として組み込んで、世界を見直してみるとよいと思います。

吉増剛造ジョナス・メカスアンディ・ウォーホルバスキア、荒木経維、ロバート・メイプルソープ青山真治中上健次、......の優れた目を盗むこと。つまり自分の目をもっともっと複雑に豊かにすることが大切なことだと思います。

そして、ないものねだりはせずに、身近なもの、場所を大切にし好きになれること。そこで肩肘張らずに着実に少しずつ深く世界を見るようになること。札幌でも、北海道でも、いい仕事はできないはずはないんです。もちろん、もっと色んな物事に触れるために、若いうちにいっぱい旅をするにこしたことはありませんが。

あ、そういえば、そうでした。「旅」、「移動」もまたこの授業の潜在的な重要なテーマでしたね。

次回は精神的な旅という意味もこめた旅のテーマをも浮上させつつ、予告したWim Wenders監督の『NOTEBOOK ON CITIES AND CLOTHES』を観て、国家(日本)、国語(日本語)というボーダーを超えて物を見たり、考えたり、作ったりするとはどういうことかについて考えてみたいと思っています。え、オリジナル版の英語で観るんですか、と心配しなくても大丈夫です。ヨウジ山本が決して流暢とはいえないたどたどしい英語で、しかし考えていることをしっかりと伝えようとする姿をみるだけでもとても勉強になるはずですから。必要に応じて私が解説を挟みますし。安藤君が日本語版を手に入れられそうなので、その暁にはもう一度観ることにしましょう。