沢胡桃、木槿、手打胡桃、海老殻苺、中の沢川、川西橋、桔梗

昨日、ようやくすべての試験とレポートの採点、成績評価の提出を終えて、私の中で春学期が終わった。今日から夏休み。

札幌、薄曇り。蒸し暑い。

藻岩山(Mt. Moiwa)。久しぶりに全容を見た気がした。

原生林のサワグルミ(沢胡桃, Japanese Wingnut, Pterocarya rhoifolia)の葉。ただし、一枚一枚は小葉で、十数枚集まって一枚の葉とみなす。

原生林のウロ(虚, 空, 洞)のある木(a hollow tree)。向こう側が見えた。未同定。

今朝は藻岩山へ向かう道を行き止まりまで行く。途中、ノウゼンカズラ凌霄花, Campsis grandiflora)が目にとまる。

ここが行き止まり。その向こう側は崖になっていて、その下には中の沢川が流れている。

何だろう、この実は。対になっている。最初は梨の実ようにも見えたが、違う。どうもクルミの一種のようだ。テウチグルミ(手打胡桃, Persian walnut, Juglans regia var. orientis Kitamura)、別名カシグルミ(樫胡桃)かしら。テウチグルミの故郷はイランだ。

幹はこんな感じ。

行き止まりからさらに藻岩山に近づくには、一本東寄りの道(いつもの復路)に出ればいい。そこまでは緩い坂道が続く。道端でエビガライチゴ(海老殻苺, Rubus phoenicolasius)の赤い実が目にとまる。別名ウラジロイチゴ(裏白苺)。食べられる。「海老殻」という命名は、茎と葉柄に密生する赤紫色の毛がエビの殻に似ていることに由来する。

その道に出ると、藻岩山が目に飛び込んできた。藻岩山に向かって少し行くと、中の沢川に架かる川西橋(Kawanishi bridge)がある。


川西橋の上から中の沢川(Nakanosawa river)を撮る。葦などが密生している。水は綺麗だ。

川に並行する遊歩道(Trail)に入り、しばらく行ってから、振り返って川西橋を撮る。あそこを左から右に渡って来た。

遊歩道を抜けると、住宅街の一角に出る。その先は「旧国道」だ。狭い歩道を風太郎と歩く気にはなれず、そこで引き返す決心をする。

遊歩道を抜け、川西橋を渡り、いつもの復路を戻る。道端ではキキョウ(桔梗, Balloon flower, Platycodon grandiflorum)が目についた。今朝の散歩は一時間半くらいかかってしまった。風太郎は、こばと公園、たんぽぽ公園、サフラン公園の三カ所で給水した。

***

こんな風につたない言葉で説明しても私以外の人には地理的なイメージはわかないよな、と反省する。

Stammersdorf Vineyard near Vienna:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、8月、219日目。


Day 219: Jonas Mekas
Tuesday August 7th, 2007
9 min. 56 sec.

somewhere
in Austria, with
Peter, we enjoy the
gifts of summer-
you should do
the same --

オーストリア
あるところで、ペーターと一緒に
夏の贈り物を
楽しむ。
あなたも同じことを
するといい。。

どこかのオープン・テラスで、持参したライ麦パン、チーズ、ハムなどを広げるペーター・クーベルカ。最後に「これはスウィーツ」といかにも甘そうな菓子パンを嬉しそうに披露する。テーブルを囲むのはメカスと大人になった息子のセバスチャン。最近の映像のようだ。葡萄の葉が描かれた大きめのグラスにたっぷり入った白ワインで、「昼下がりに乾杯」してから、夏の陽射しの下で、三人は気持ち良さそうに黙々と白ワインとパンとチーズとハムを味わっている。

セバスチャンが、あの木は何かと尋ねる。あれは桃だよ、とペーターは答える。カメラは桃の木々の向こう側に広がるワイン畑(Vineyard)を捉える。そうか、彼らはオーストリアのどこかのワイナリーに来ているんだと、ここで分かる。映像でははっきりとは確認できないが、そのワイン畑の一部には敢えてある種の桃の樹が植えられているようだ。案の定、ペーターは「興味深いことなんだが」と言って、桃と葡萄はお互いに風味を摂取し合うんだと解説しはじめた。何でもよく知っている人だ。「ここの桃を食べれば、葡萄の味がするし、葡萄は桃の味がするんだ」。

場面は替わり、農園主らしき見知らぬ老人がメカスたちに小ぶりの桃を持って来てくれた。ペーターの知り合いのようで、ドイツ語で話している。「じゃあ、また」と言って三人と握手して彼は立ち去った。小ぶりの桃が山盛り入った白いプラスチックのバケツが、彼らの傍に置かれている。

その一帯の空気に桃の香りが漂っているのか、メカスは何度も深呼吸して「あー」と言葉にならない気持ちよさを表わす。三人は葡萄畑に向かう。桃談義はまだ続いているようだ。メカスは桃を一個手に持ったままで、ペーターの説明は聞かずに、その香りを嗅いでは、「たまげた(amazing)」を繰り返す。「香りだけだよ」とペータ。その桃は食用ではなく、本当に香り用なのだろう。何桃だろうか。ペーターはセバスチャンに葡萄栽培に必要な陽射しや気温などについて先生のように説明を続けているが、メカスは聞いていない。

メカスたちは両側に葡萄畑が広がる細い道を行く。高圧電線の鉄塔が一瞬写る。メカスはカメラを葡萄に近づける。「農民の子」を自認するメカスにとってこういう場所は嬉しくて仕方がないようだ。「ブドウ、ブドウ・・・まだ沢山あるな・・・」。歌うような独り言が続く。丈の低い葡萄たちの傍に桃の高木が植えられた場所がある。メカスは手に持った桃をカメラの前に高く翳す。メカスたちは濃い紫色に熟したブドウの実を摘んで味見する。普通はワイン用の葡萄は生食には向かないはずだが、三人とも「んーん、んーん」と言葉にならない感想を漏らしながら、一粒一粒、次々と頬張る。桃の香が入ったよほどいい香りと味なのだろう。ぺちゃぺちゃ、くちゅくちゅと口の中で噛む音が本当に美味しそうに聞こえる。「赤は特に美味しいなあ・・・赤と白が一緒に植えられてる」とメカス。

葡萄の木が整然と並ぶ広大な畑が写る。かなり大きな畑だ。数ヘクタール。

最後にメカスはカメラを自分の顔に向けて、珍しいことに、今いる場所を複雑に訛ったドイツ語で言うが、Sではじまる地名が聞き取れない。

Wir sind in S...dorf, S...dorf.

「シュタメラスドルフ」と聞こえる。おそらくペーターの住むウィーン近郊だと思って、Sではじまりdorfで終わるそれらしい綴りを考えて、検索したら、

Stammersdorf

と判明した。シュタマースドルフ。やはりウィーン郊外の北西に位置する葡萄畑のある小さな町だ。ホイリゲ(heurige)という、オーストリア東部に見られるワイン酒場で有名な村の一つらしい。