キレンジャクの大群に出逢う

札幌、曇り。寒気緩む。藻岩山の山頂付近は雪にけぶって見えない(→ Mt. Moiwa, February 11th, 2008)。



野鳥の大群が原生林と街路樹ナナカマドの間を一斉に往来する場面に遭遇した。一斉に飛び立つので、その羽音は結構大きな音となって耳に響いた。驚いた。冠羽のあるどこか見覚えのある野鳥だった。肉眼ではちゃんと確認できないので、とにかく写真を撮った。ビデオも撮った。

散歩から戻り調べたら、案の定、キレンジャク(黄連雀, Bohemian Waxwing, Bombycilla garrulus)だった。昨年の今頃タンポポ公園で見かけたことがあったのだった(「シラカバとキレンジャク」(2007-02-25 ))。ヒレンジャク(緋連雀, Japanese Waxwing, Bombycilla japonica)と極めてよく似ているが、名前の通り、尾の先端が黄色く、翼に二箇所の白班があるのが決め手だった。昨年の記録にあるように、「ワックスで固めたような尖ったヘアー・スタイルが目立つ野鳥」で、「全身の羽毛が絹のように滑らかな印象」である。

散歩復路、黒猫に出逢う。

この丸ゴシック系の書体が気になった。微かな違和感があった。「月」部分の左縦線の曲がりだと思う。

四日目の雪だるま。雪解けが進んで一段と人相が崩れた。

サンセリフ問題



図書館はローマン体。バークレー公立図書館(2004年10月18日撮影)。

本屋はサンセリフ体。バークレーテレグラフ通りのコーディーズ書店(2004年10月18日撮影)。


実は日本語のいわゆるゴシック体に関して、以前から薄々感じていたことがありながら、ちゃんと知らなかったことがある。

書体としてのゴシックが指すものは、日本と欧米ではまったく異なる*1

この点を少し調べて整理してみた。

和文書体と欧文書体の各二系列は次のように対応する。ただし、緩やかに。

些細なことだが、はっきりと再認識したのは、
(1)日本語で「ゴシック」といったときのイメージは欧文の「サンセリフ」をも含むかもしれないが、
(2)欧文書体では「サンセリフ」のことを「ゴシック」とは決して言わない、
ということである。すなわち、
(3)欧文書体の「ゴシック」は現在では一般にドイツ文字ともいわれるブラックレターを指す。

つまり、ゴシック=サンセリフではない。

この些細なズレには、実はちょっとした日米関係の歴史が絡んでいるらしい。政府の意図が絡んでいたかどうかまでは不明である。その辺りについてはやはり流石にuakiraさんが『日本語整理』で追求されていた。

この記事の中でuakiraさんは『デザインの現場』2006年10月号に掲載された「ブルース活字鋳造所の見本帳(Four-Line Pica Ornamented No.8他)」(38頁)に関するウェスタンマインドコーポレーションのスコット・リッチーの解説文の後半「本木昌造が日本に最初に輸入した鋳造機はニューヨークのブルース社製で、当時の欧文活字やボーダーの大部分がブルース活字鋳造所のものだった」の根拠を問題にした。

それに対してle jeuneさんからコメントが寄せられた。

ブルースが特許を取得していたこともあってか、当時は鋳造機はブルースが定番だったのでしょう。日本の欧文活字がブルースのニューヨーク活字鋳造所製のものが多かったかどうかはわかりません。1904年に金港堂が出したThe Russo-Japanese War Fully Illustrated(東京築地活版製造所印刷)などには、当時全米最大手のMacKellar Smiths & Jordan社製のDonaldson書体をベースにしたものが使われていますから。どちらにせよ、ボディサイズの整合性という点で、米国製(あるいは一部の英国製)の活字しか選択肢はなかったということでしょう。

それに対するuakiraさんの応答では、話題がいよいよ「サンセリフ」へと移る。

サンセリフ書体の呼称が米国でも「Gothic」に一本化されていない時期であるためか、単に活字鋳造所間の競争の結果なのか、印刷局/紙幣局の見本帳にある欧文サンセリフ系活字の名称がサイズによってDoricだったりGothicだったりLatinだったりと様々な名である点に強い興味を引かれてしまった次第です。

それを受けて、le jeuneさんは「サンセリフ問題」の論点を明確にする。

サンセリフの呼称の多様性については、Mosley, James. _The Nymph and The Grot_, Friends of the St Bride Printing Library, London 1999のpp. 55-6が詳しいです。最初にサンセリフ書体がCaslonやFigginsの見本帳に19世紀初め現れた頃は、Egyptianとか名前無しでしたがすぐに、Sans-serif, Grotesque, Sans-surryphs, Gothic, Doric, Sans surryphs, Antique, Stein-Schriften, Grotesk-Schriften, Sanserif等と色々な名前で呼ばれるようになったことが示されています。鋳造所によってもバラバラでしょうし、同じ鋳造所のものでも書体の系統が違えば、違う名前がついている場合もあるはずです。大小色々なサイズを揃えているものもあれば、そうでないものもあるでしょう(写植やアウトラインフォントではないので)。Sanserif, Sans-serifはセリフ無しを意味するだけですが、その他の名称については、サンセリフ書体が形成される背景。つまり、考古学的な興味の高まりに連動して、古代のギリシア・ローマ・エジプト世界に対する憧憬、即ち、近代社会とは異なる、もっと素朴で自然に近い、シンプルで純粋な、理想化された古代への憧憬、という背景が関係している。という同書の主題と関係しています。

le jeuneさんが依拠しているのはこの本である。

The Nymph and the Grot

A new edition of the classic text on sanserif types. Published by The European Friends of the St Bride Printing Library
asin:0953520102

というわけで、「サンセリフの呼称の多様性」と「サンセリフ書体が形成される背景」という非常に興味深い論点が浮き彫りにされている。サンセリフの呼称の多様性に関しては、言わばその残響を現在のゴシック≠サンセリフというズレに聞き取ることができると言えるだろう。またサンセリフ書体が形成される背景に関しては、確かにMosley=le jeuneさんのいう「古代への憧憬」が一方には認められるであろうが、他方、もうひとつの背景があったように思われる。というのは、例えば、

によれば、サンセリフは19世紀になって商業目的のディスプレイ用の活字書体として普及したという背景もあるらしいからである。当初は大きなサイズの木製活字だったという。分かるような気がする。サンセリフの登場はいわゆる大衆消費社会の成立と拡大にも深く関係していたのだろう。サンセリフ書体の形成と発展の歴史は「古代への憧憬」と「資本主義的欲望」という二つの力の絡み合いから説明することができるだろうか。これは宿題。

それにしても、数ある呼称のなかで、なぜ「サンセリフ」というフランス語の呼称が主流になったのかも未だよく分からない。

オプティマに惹かれた理由


欧文書体のサンセリフ系のうち、以前からオプティマOptima)になぜか惹かれるところがあった。調べてみて、その理由の一端が分かった。

書体の分類上、一般的にはセリフのない活字書体であるためサンセリフに分類されるが、他の多くのサンセリフ体とは異なり、縦線と横線の太さが異なり、縦線のほうが太い。そのため、エレガントさとシンプルさを兼ね備えた独特の美しいフォルムにより愛されている。*1

つまり、オプティマは限りなくセリフに近いサンセリフ、もっと言えば、境界線上にある書体なのだ。境界に惹かれる質(たち)なのである。オプティマはドイツの書体デザイナー、ヘルマン・ツァップHermann Zapf, 1918-)による設計(1950)だが、一昨日紹介した書体デザイナー小林章氏がオプティマの改刻に携わっていたことを初めて知った。

2003年には、ライノタイプ・ライブラリ社から、改刻されたOptima Novaが発表された。このOptima Novaのデザインはツァップの協力のもと小林章によって行われた。フルティガーFrutiger)の改刻版 Frutiger Next と同じように、オブリーク(光学的な斜体)ではなくきちんとデザインされたイタリックが用意され、細部にわたるデザインの質の向上が図られている。*2

小林章氏自身によるOptima Novaに関する解説はこちら。

その中で、オプティマの設計思想も語られている。

フーツラFutura)のようなサンセリフ体とボドニBodoni)のような古典的なローマン体との中間の書体を開発したいという発想のもとにオプティマは制作されました。通常のサンセリフ体に見られる直線の連続からくる単調さを避けるために、画線は微妙なカーブを持たせています。これはオプティマ書体ファミリーに共通する特徴であり、これがオプティマのデザインの優雅さを際立たせます。

「中間の書体」。

これをローマン体の側から「セリフレス・ローマン体」、すなわち「セリフ(髭、飾り)」の無いローマン体と呼ぶこともあるらしい(書体の基礎知識 欧字書体編)。