時空の鏡:シンクロニシティ

奈良原一高「時空の鏡:シンクロニシティ」展
http://www.syabi.com/topics/t_narahara.html


東京は、歩く街だなぁ、と思う。
たとえば京葉線の東京駅とか。
羽田空港で、はずれのターミナルに行く時もかなり歩く。
地下鉄の日比谷駅での乗り換えも最初は驚いた。


東京ビッグサイトでさんざん歩いた後で、行った恵比寿ガーデンプレイスも、恵比寿駅から遠い。ひさしぶりに行って、やっぱけっこう遠いな、と思った。目的地は、東京都写真美術館だ。ガーデンプレイスの裏に静かにずっしりと建っている写真専門の美術館だ。今回は奈良原一高だからね、これはいかないわけには。

私の本棚には復刻版の『人間の土地」がある。彼のデビュー作で、初版は1956年だから、もう半世紀前ということになる。長崎のあの軍艦島が、まだ炭坑労働者でごったがえしていたころの写真だ。『人間の土地」は大学生の時に買った。学生には高価だった。

白い波頭がコンクリートの岸壁に打ちつける端島の写真から、夜の島の写真、そして煤で真っ黒になった体に目だけが白い男の写真へと見てゆく辺りで、私はもう世界に入っていた。この写真集の良いのは、生活があることだ。先日紹介した宮本隆司のようなフェティッシュな廃墟の写真には、どうしても不毛なものを感じてしまう。軍艦島もたくさんの人が写真におさめてきたが、どうもピンとこないものが多い。それは人間の匂いがしないからだろうと思う。

展覧会は、彼の50年の疾走を辿る形になっている。人間の土地からも10枚ほどあった。「王国」など初期の作品を見ながら、私はこれらの写真を呼吸して生きてきたんだな、と思った。これほど自分の感性にぴたりとくる写真家は他にいない。空間の捉え方、スピード、リズム、ため息がでるほど格好いい。今回、改めてすごいと思ったのは、彼の60年代のファッションフォトだ。カラー写真の色合いこそ多少古びているが、鮮度が落ちていない。

たっぷり鑑賞した後で、外へ出ると、すでにもう眼が奈良原一高になっていた。建物の柱に落ちる光、高架からのぞく看板、ガラスの向こうで食事をする女性たち、どれも格好良く見える。もちろん勘違い、思い過ごしなのだけれど、そう思わせる力を彼の写真は持っている。マジックだな。


FUJIFILM奈良原一高の紹介
http://www.fujifilm.co.jp/photographer/2001_07narahara/