新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

213: アブラガレイ

カレイ目カレイ亜目カレイ上科カレイ科オヒョウ亜科アブラガレイ
学名:Atheresthes evermanni Jordan and Starks
英名:Kamchatka flounder [原], Arrowtooth halibut

北海道産の体長約40cmの個体から取り出した左右の「魚のサカナ」。上が有眼側、下が無眼側の標本。「油鰈のアブラガレイ」は、無眼側と有眼側のサイズがあまり変わらないことや、烏口骨の『嘴』部が細長いことなど、同じオヒョウ亜科に属するマツカワのものに一番似ているように思われる。

有眼側(左)と無眼側(右)の標本を、それぞれ上の写真とは反対側から観察したもの。烏口骨の本体後方(『嘴』部の付け根)が大きく湾入しており、全体的に『おたまじゃくし』を彷彿させる形である。

「魚のサカナ」の標本をを取り出した個体の表と裏。アブラガレイの表皮は無眼側も暗褐色である。


いつも通り「日本産魚類検索」を開き、1)眼は体の右側、2)有眼側体側にイボ状の突起なし、3)有眼側の鰓孔上端は胸鰭上端より上(写真上段左)、4)顎歯は有眼側/無眼側の両方で良く発達し犬歯状(写真上段右)、5)口が非常に大きく、頭長は上顎長の2倍程度(写真上段左)、6)尾鰭後縁は湾入(写真下段左)、7)側線はほぼまっすぐ(写真上段左)、8)両眼間隔は狭く、上眼は頭部背縁にない(写真上段左)、9)鰓耙は細長い(写真下段右)などの形質から、今回の魚はアブラガレイであると判断。

八王子総合卸売センター内、高野水産で購入。当日はキロ500円。トロ箱には「黒ガレイ」とあり、店頭では「クロヤナギガレイ」と言われたが、標準和名クロガレイや、「クロヤナギガレイ」と呼ばれることもある標準和名ヒレグロとは全く別の魚。カラスガレイとともに回転寿しなどの「カレイの縁側」の原料になるもので、フィレになったものは市場やスーパーでも度々見かけるが、関東では尾頭付きの「鮮魚」はあまり見かけない(少なくとも筆者は数回しか見ていない)。今回は取りあえず5枚に下ろして、ハーブ/塩/胡椒で味付けし、パン粉をまぶしてからオリーブオイルを振ってオーブントースターで焼いてみた。脂の乗った身は本当に柔らかいが、まずまずの美味。ちなみに「魚のサカナ」(と耳石)を摘出するために頭胸部を煮ただけで身がボロボロに崩れてしまったほど柔らかいので、煮付けなどにはあまり向かないのでは?と思われる。


【参考】独立行政法人水産総合研究センター」が公開している『水生生物情報データベース』の中の「アブラガレイ」のエントリーにある「分類・形態/特記事項」(国立科学博物館・星野浩一氏記)の項を読むと、アブラガレイ属は「カラスガレイ属を含む他のカレイ科魚類には見られない原始的な形質を有」しており、「カレイ科の中でもっとも古い起源を持」つことが示唆されるらしい。興味のある方はご一読を。また文中にも引用されている、アブラガレイを含む9種のカレイ科の魚のミトコンドリア染色体上にあるチトクローム b遺伝子配列を用いた系統解析の論文は、下のリンク先から全文PDFのダウンロードが可能。

SUZUKI, N., NISHIDA, M., AMAOKA, K., The Phylogenetic Position of the Genus Atheresthes (Pleuronectidae) and its Classification:A molecular phylogenetic approach using mitochondrial sequence data. Bulletin of Fisheries Sciences, Hokkaido University 52(1), 39-46 (2001)