石巻市立門脇小学校は、誰のものなんだ?

拝啓
晦日を、宮城県石巻市の取材先で過ごしている。大晦日の風物詩、と思い、NHK紅白歌合戦を付けていた。
そうしたところ、長渕剛、という歌手が、津波に襲われ黒焦げになった石巻市立門脇小学校の校庭に立ち、歌を唄っていた。燃えた校舎を背景にして、光をたっぷり使い、「被災者」へメッセージを送るという。ただし、誰一人、その校庭に入ることはできないそうだ。長渕剛一人を除いて。
鹿児島から上京し、「東京青春朝焼け物語」に、「今日から俺東京の人になる。せっせせっせと東京の人になる」と唄った長渕剛は、今夜本物の「東京モン」になってしまったということを、教えてくれた。

長渕剛。お前の恍惚として立っているその土地の上で、いったい何人の人が死んだんだ?いったいどれだけの動物たちが死んだんだ?そしてお前は、石巻市立門脇小学校の校庭からその土地の人を締め出し、「被災者へ歌を届ける」だけの、どんな資格があるのだ?
石巻市立門脇小学校にゆかりのあるすべての人々を締め出して、「スターの俺が歌を届けてやる」という、度し難い「東京モン」の傲慢と思い上がりが、どうして分からない?「とんぼ」で「東京のバカヤロウ」と唄ったお前が、今はその「東京のバカヤロウ」になってしまったんだ。
今日の福島民友新聞に、同じ九州出身の俳優・高倉健さんの短いインタビューが載っていた。その最後の一言に、「『被災地には行きにくい。行ってはいないけど、ずっと思っています』と静かに語った。」と書いていた。

たとえば、九州で同じような大震災が起きた時、東北出身の歌手が九州に乗り込んで行って、我が物顔で「歌を届けに来た」なんて言って、その土地の大きな被災地を荒らしたら、どう思うか。少し考えれば分かるはずだ。

怒りで、身体の震えが止まらない。東北で起きた震災のことは、徹頭徹尾、東北に生きる人間に描かせてくれ。

                                                  敬具

平成辛卯 大晦日
宍戸 大裕