[日中外相会談]「関係改善の道筋はつかなかった」 読売5月8日社説 YOMIURI ON-LINE / 社説・コラム

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  [日中外相会談]「関係改善の道筋はつかなかった」

 中国が「反日」デモを抑え込んだのを受けた初の日中外相会談だった。だが関係改善への道筋は、やはりつかなかった。

 外相会談は、アジア欧州会議(ASEM)外相会議の日本での開催を機に京都で行われた。今月下旬に中国の呉儀副首相が来日することもあって、歴史共同研究や外務次官による協議など対話の拡大では合意した。

 しかし、国民感情、歴史認識など、日中関係の根本にかかわる問題では、主張が対立し、前進は見られなかった。

 町村外相は「反日」デモによる日本大使館などへの破壊活動に対する謝罪と賠償を改めて求めた。李肇星外相は被害部分の原状回復への努力は表明したが、謝罪せず、賠償にも言及しなかった。

 謝罪と賠償は、在外公館の保護は受け入れ国の責務、と定めたウィーン条約に基づいた当然の要求だ。中国が明確な国際法違反にけじめを付けなければ、日本の対中感情は好転しないだろう。

 一方で、李外相は「A級戦犯が祭られている靖国神社には絶対参拝しないようにしてほしい」と、小泉首相の参拝中止を強く求めた。戦没者をどう追悼するかは純粋な内政問題だ。中国の主張は筋違いの内政干渉である。

 町村外相は、中国の教科書にある日本の記述について「事実関係が不正確な個所や残虐な表現があるのではないか。戦後の平和国家としての記述が少ないのではないか」と述べた。当然の指摘だ。歴史共同研究の重要なテーマとなろう。

 北朝鮮の核問題は、この会談に先立つ日中韓外相会談で取り上げられ、6か国協議の早期再開で一致した。

 だが、現実にどう対応するかについて日中間で具体的な合意ができたわけではない。日米両政府は、北朝鮮が再開に応じなければ国連安全保障理事会での論議を求める方針を固めているが、中国が反対する可能性が大きい。

 会談前日の東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓の非公式外相会議で、日本は、マレーシアで年末に開催を予定する東アジアサミットへ米国のオブザーバー参加を提案した。日米分断という中国の“狙い”を警戒してのことだ。

 東アジアサミットは将来の共同体構想を掲げているが、東アジアは欧州連合(EU)と違い、共同体に不可欠な民主主義、という共通の価値観がない。中国は共産党一党独裁の非民主主義国だ。

 日本が、この地域での主導権を握ろうとする中国の思惑に引きずられて、現実性に乏しい共同体構想にのめり込み、日米の同盟関係を損なうようなことがあってはならない。

(2005/5/8/05:32 読売新聞 無断転載禁止)