桜庭一樹 『青年のための読書クラブ』
桜庭一樹(さくらば・かずき)の新刊『青年のための読書クラブ』(ISBN:4103049510)を月曜日に購入。寝付く前の一時や作業の合間に,章ごとに読み進めた。
表紙カバーを外し,本の質感を指先で楽しみながら読むことが多い。本作の場合,表に記された《学園の沿革》を真っ先に目にすることになった。記されていたのは,1918年から2020年に至るまでの略史。
「2020」年? その一行に想像は膨らむ。
作品の舞台は,フランスより来たりし聖女マリアナの創建になるお嬢様学校。なのに,この小説からは乙女の香りが漂ってこない。かといって,ほろ苦いわけでもない。温度が低い,とでも言えばいいのだろうか。
本作に収められるのは,学園内において埒外の者が集う「読書クラブ」の部員が書き残してきた部誌。学園の正史からは葬り去られることになるであろう暗黒史を,各年度の執筆者が書きとどめた記録は,2つの世紀をまたがり,部室の本棚に秘かに隠されている。本作では1969年,1990年,2009年...と,5つの年の出来事が紐解かれる。
今野緒雪『マリア様がみてる』のように咲き誇るような青春は描かれず,紺野キタ『ひみつの階段』のような砂糖菓子っぽさも持たず,袴田めら『最後の制服』のような友情の表象があるわけでもない。
一言で表すなら,デカダン(dcadent)が支配する読み物。
わかつきめぐみに『黄昏時鼎談』(ISBN:4592131509)という作品があり,その中では,話者が代わる代わるに奇想譚を語って聞かせます。本作『青年のための読書クラブ』の読後,ふと思い浮かびました。