毒を喰らわば皿まで

立冬を過ぎたとたん急に星が近くなった。見事なまでの満天の星空である。明日はまた雨になる。一雨降るごとに空気が澄んでゆく。空気の汚れを洗い落としていくようだ。
ポケットに星のかけらを握りしめ
▼長男は早々に進路を決めて復活した部活の最後の公式戦である。終わればあとは春の入学を待つのみだ。自分が最も影響を受けた高校のバレー部の顧問に憧れて同じ道を進むというのだから、親として何も言うことはない。イマドキ自分で目標を見つけてこれるなんて立派なもんだ。ただ子供の希望がかなうように支援するだけだ。
▼先週は遅れ馳せながら合格祝いと、最後の大会の景気づけに家族で食事会をした。「食べ放題の焼肉とか回転寿司なら行かない」というので、会社でよく使うフグ割烹に連れていった。もちろん子供たちは初めての経験である。僕だって大人になるまで、それもかなり年をとって会合などに出席するような立場になるまでホンモノのトラフグなんて食べたこともなかった。
▼てっさにちりに雑炊だけのシンプルなコースでひとり五千円。


普段の宴会ならこれに前菜や唐揚げがついている。贅沢だと言われるかもしれないが、家族四人で二万円の出費がいかに痛いかは身に染みてわかる。いつもなら名物のヒレ酒を飲むところを、僕はビールも飲まず、宴会ならおなかいっぱいで食べられない最後の雑炊をおかわりしてお腹を膨らませた。

▼前回のお客さんなんか、席につくなりメニューを見てコースの内容を確認するや白子のホイル焼きを追加注文した。お客さまだからもちろん異論はないが、自腹ならどうか。このように一般的な日本人のポケットは完全に二つに別れている。ふぐなどの高級料理はポケットを二つ持っている人の口にしか入らない。
▼僕は社会に出て初めて勤めたエロ本の出版社から、打合せと称して普段の飲食まで経費で落とす編集者を何人も見てきた。カラ出張や裏金が社会問題になった時、公務員の友人の口から直接「僕もやってたよ。そういう慣習だったから特に罪悪感もなかった」ときいた。こうしてみんな自分のサイフのヒモは絶対に緩めず、他人の金だけを使おうとする。
▼25億の使途不明金を使い込んだといわれる厚生年金基金の事務長が、逃亡先のフィリピンで逮捕される事件が報道されているが、違法かどうかは程度問題で、道義的には日本国民一人残らず同罪だろう。飲食交通宿泊費など落とせるものはなんでも経費で落とし、自分のサラリーは全て家のローンに注ぎ込む。そうでないとマイホームなんて持てっこない。そんな世の中はもうこりごりだ。
▼人間は共感の生き物である。フォローしていたブログもなんとなくそりが合わず、ひとつ、またひとつと櫛の歯が抜けるように読まなくなり、ついには東京自由人日記を残すのみとなってしまった。どこかに僕のような青春回顧録はないかとネットサーフィンしていたら、たまたま引っ掛かったブログが面白くて新たにお気に入り登録した。
▼基本的には同世代を探していたつもりだったが、どうやら僕より随分若いようだ。おそらく二十代後半だと思うが、僕が気に入って自分のブログで取り上げたテレビや本や映画を、ことごとく取り上げている。興味のベクトルは同じようだ。ただ僕より若い分、僕の知らない最近のサブカルについて多くの言及がある。
▼僕より若干はてなキャリアが長い分だけページビューが多い。と思ったらビックリ桁が違う。読んで納得。蓮実重彦の小津論ばりの繊細な批評である。また負けた。数字は正直だ。要するに僕のはつまらないのだ。未だひとりのファンもつかず、最近はてなスターすらつかないのがいい証拠だ。
▼だんだん忙しくなってきた。もう今年は日曜日はない。あとは何日代休がとれるかだ。自宅から現場へ、現場から会社へ、会社から自宅へ向かって車を走らせていると時々自分がどこを走っているかわからなくなる。どこへ向かって走っているのかわからなくなる。

火曜はカレードリアにイモサラダ。

水曜は焼きサバにシチュー。

木曜はスープ春雨にポークソテー

金曜はトマトクリームパスタ。うちに帰ればこれだけの妻の手料理が待っているのだから、仕事でなけりゃフグなんて食べようとも思わないが、それはみんな同じかもしれない。子供たちが思いのほか喜んでくれたのはよかった。