日本でダイアモンド発見

読売オンラインより。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20070910it02.htm?from=rss

愛媛で国内初の天然ダイヤ「日本で採れない」定説覆す


 名古屋大と東京大の研究チームは10日、国内で初めて天然のダイヤモンドを愛媛県内で発見した、と発表した。


 アフリカ大陸などと比べ、新しい地質の日本列島では、ダイヤの産出はないとする定説を覆す画期的な発見で、札幌市で開かれている日本地質学会で同日、報告した。

 発見したのは、名古屋大の水上知行さん(地質学)。愛媛県の山間部で数年前に採取した火山岩に、レーザー光を照射し分析したところ、約1000分の1ミリ・メートル(1マイクロ・メートル)ほどの大きさのダイヤを見つけた。

 発見場所は地質学的に貴重で、保護する必要があるため、詳しい地名は明らかにされていない。

 天然ダイヤモンドは、地下100キロ・メートルよりも深いマントルで、1000度以上の高温、5万気圧以上の高圧の状態でできると考えられている。マントルでできたダイヤは、マグマの働きで地上に運ばれてくるが、こうした現象の痕跡は、今から10億年以上前に形成された古い大陸のアフリカやオーストラリアなどでしか見つかっていない。

 一方、約6億年前より新しい時代に形成された日本列島は、天然ダイヤの産出には向かないとされ、これまで発見例もなかった。

 水上さんは「発見されたダイヤモンドの商業的価値は分からないが、日本で本来あるはずがないと思っていたダイヤモンドが見つかり、大変驚いた」と話している。
(2007年9月10日11時17分 読売新聞)



わたくしの出身講座の記事であります。めでたい。発見もさることながら、こうして報道されることはたいへん喜ばしいことだと思います。嬉しいです。



そんなめでたさに水を差すようですが、以下、この「記事」の書きように対する苦言です。これは言っておきたい。
この記事、近年の科学記事の例に漏れず、いい加減な記述で正しい内容が取りづらくなっています。ひどいもんです。
文面から察するに、火山岩中にゼノリスとして含まれたマントル起源物質からの発見でしょう。発見されたというダイアモンドの大きさからすると、さらにマントル起源物質中のカンラン石や柘榴石などの鉱物中に含まれるインクルージョンを用いたのではないかと推察します。発見者である水上さんのプロフィルhttp://mylonite.eps.nagoya-u.ac.jp/%7Emizukami/を見ても、まずそうだと思います。
しかし、この記事からは「推測」しかできません。


だから、「数年前に採取した火山岩に、レーザー光を照射し分析したところ」という表現は、間違いとはいえないまでも、控えめにいって誤解を招きかねないものだと思います。
だいいち、こういう絵ヅラが想像されちゃうでしょうw


などとネタっぽく書いてみましたが、こういう想像力のありよう(言葉を変えて、物語化といってもよいでしょう)を軽くみてはいけないと思います。記者氏は「わかりやすくすること」を第一に考えたのではないいかと推察しますが、しかし「火山岩」、正確には「火山」という語が引き寄せる物語的想像力が、たとえばマントルのそれよりも強いことは考慮されなければならない。「火山」「火山岩」という語からは、地表に噴出したマグマが固まった岩石や、地表近くで固結した岩石が想像されます。すると、記事後半のダイアモンドの地下深部での生成の説明(これも微妙に変なんだがキリがないので言及しません)とぶつかってしまいます。


実際には、地下深くで生成したマグマが、地表近くまで上がり、そこで固結した結果「火山岩」とカテゴライズされる岩石になったものがあり、さらにその中に地下深部の物質が何らかの形で取り込まれており、それがそのまま残ったものが調べられたということと思われます。いずれにせよ、そうしたものを手がかりに地下深部の様子を探る過程の「発見」ということです。


といったようなことも、この記事だけでは「推測」するしかない。それどころか、地球深部の様子をどうにか探ろうという営為を伝えるはずのものが、いつのまにか「愛媛の火山からダイアが出るんだって」とパラフレーズされてしまう危険が伴われています。
これが、
愛媛県の山間部で数年前に採取した火山岩に、レーザー光を照射し分析したところ」
ではなく、たとえば
愛媛県の山間部で数年前に採取した火山岩中の物質に、レーザー光を用いた分析を行ったところ」
であれば問題ないわけです。6文字しか増えていません。この程度なら改行や句読点などの工夫で吸収できるでしょう。


誤解のないように申し添えておきますが、これは「専門のひとから見ればおかしいかもしれませんが…」という話ではない。
そもそも、ぼく自身、学部しか出ていませんから、およそ「専門」を名乗れる者ではありません。そこらの不勉強な中学高校の理科の先生よりは多少ましって程度です。だいいち、レーザー光を用いた分析法が、「レーザー・ラマン分光分析」と呼ばれるものであることは(いまの講座の様子を聞く機会があったという個人的な理由で)推測できますが、それがどのような分析法であるかという知識は持ち合わせていません。


だからむしろ、これじゃ一般の読者に向けて報道すべき内容を伝えてないでしょ、と言っているのです。さらに、イメージ化やパラフレーズが持ってしまう「効果」に対して、少々無頓着じゃありませんか、ということです。メチャメチャ文系的なツッコミなんですよ。


それはそれとして、鉱物趣味の人々に向けて一言付け加えておくと、草下英明『鉱物採集フィールドガイド』(1982)に、日本でダイアモンドが見つかる可能性のある場所として、千葉県嶺岡があげられていますが、そこで言われている「可能性」は、プレートテクトニクス以前の古い学説に基づくものです。現在では否定されています。この「嶺岡でダイアモンドが……」という話も、鉱物趣味関係では、本当に何度も何度も亡霊のように上がってくる話なので、少し強調しておきます。


あと、「約6億年前より新しい時代に形成された日本列島は、天然ダイヤの産出には向かない」て文の「向かない」という表現も気になるなあ。向き不向きとかそういう表現には馴染まないような気が。