女性用下着と私

 仔細は語れぬが、私のアパートの話である。このところの話である。このところ、向いの棟の一階に引っ越してきたらしい住人が、毎日のように、女性用下着を干す話である。
 向いの棟の一階は、窓が外階段向きについている。そこに洗濯物を干されると、外階段通路を歩く人間の目の高さにくることになる。玄関側には干すことはできないだろう。不利な立地だ。
 そこに、堂々と、毎日、女性用下着を干す住人(この住人がどのおうな性の持ち主かはわからん。俺の部屋の隣人は何度も書いてきたように、オカマのおっさんだし)が引っ越してきたらしいのだ。引っ越してきたらしい、と言うには理由がある。前、その部屋に住んでいたのは、階段側の人の目に入るというのに、カーテンもブラインドもせず、堂々と暮らしていた男だった。だが、その男が引っ越した。しばらく空室が目に入ってきたから間違いない(大家は雨戸を閉めておくべきではないのか)。
 ともかく、いかにも、わざとらしいような、女性用下着の干しっぷりなのである。なにかの罠のようにすら見える。それらは、比較的派手な色であって、嫌でも目立つのである。それに、私が通路階段を降りると、ほぼ向いた方向にあるのである。見たいわけではないが、気になってしまうのだ。気になって、ちょっとドギマギしてしまうようなところもあるのである。
 断っておくが、私は下着にフェティシズムを感じない。特別な感情は抱かない。言い訳やなにかではないし、もしも自分が下着フェチであれば、今までにそれをネタにしてなにか書いてきただろう。そういうところは、ないのだ。でも、やはり、その、一般的な、健康的な男子……と、なにか人間をひとくくりにすること、それこそ千差万別な性や嗜好に関わることでひとくくりにするのは避けたいところなので、でも、まあ、ある程度、その、ええと、なんといえばいいのか、そりゃなんというか、やっぱりドギマギというか、そこに性的ななにかを感じてしまうところもあって、正直、勘弁してほしいというような、いや、エロやスケベに嫌悪感はないのだけれども、この、狭い通り道の、目の高さに、下着干さないでほしいなと、思うのだ。
 ……というのは、男の勝手な言い分か、などとも思うのだ。「下着がエロいから、部屋干ししろ」というのは、性犯罪の被害者側に非がある的な、「そんなエロい服着てるから」そういうところに通じてるのではないか、というような。いや、このあたりは、もう、自分の手に負えない領域に踏み込んでいるのがわかって、さっきから警告音が鳴り響いているのだけれども、うーん、どうだろうね。
 なんかね、そりゃまあ、下着見て変態行為したり、盗んだりするようなやつはおロープ頂戴になるし、プリントアウトものだろう。でも、「おっ」と思ってしまうところについてね、それは内心を裁けないような。でも、自分には分かるじゃないか、その欲情というか、劣情というか、そこまで行かないにしても、思わず目が行ってしまうというような、視線誘導されちまうような……。でも、それが嫌だからやめてくれて、というのは、どうなのかね、と。
 うーん、たとえば、男性用下着は平気で干すかどうかとか、そういう対称性? みたいな? 俺? 俺は自分の立地だから、別に平気で外干ししちゃうけど、たとえば、一階のあの部屋ならどうかな? 正直、あんまり干したくないな。つーか、服自体、干したくないところだけどな、みたいな、ところもあって。で、女の人らが、男性用下着見て、そこで、どういう感情を抱くのか、抱かないのかとかもわからんし、だいたい、男と言っても、その、いろいろの性的なありようのことは別にしても、たとえば下着への距離感も千差万別だろうけれども、そうだな、たとえば、混んだ電車の中で東スポのエロ記事欄を外向きにでも、中向きにでも、まあ、他人に見えるように読んでいたら、そりゃあなんというのか、まあ、一般的、って、なにが一般かということはないにせよ、大多数的に、セクハラ的というか、それに嫌悪感を抱いたり、「やめてほしい!」と思わないまでも、たとえば俺にしても「スケベなものが目に入った!」というような「おっ」というところはあるし、下手なことになると困るので、できればやめてほしいのだけれども、じゃあ、それと下着が同じ物かどうかというと、そのあたりは、どうにもわからんというような。
 ああ、しかしなんだ、もう考えてもようわからんから、そのうちの勉強だ。でもしかし、あの部屋の住人は、毎日のように下着を干すんだ?……というのは、じつはちょっと目星がついていて、たぶん、洗濯機がないんじゃないのかな? いや、実は俺も、引っ越してきてから二ヶ月くらいか、ああ、この日記を始めたころ、洗濯機がなかったのだな。

 そうすると、たぶん、あまりまとまって洗濯する、というわけにはいかなくて、とくに下着類などは、こまめに片づけておくのが上策なんだよ。で、あの部屋でも今、同じ事が行われているんじゃないのか、というのが見立てなのだけれども。
 しかしまあ、今思うと、よく自分も洗濯板で洗濯などしたよな。全自動洗濯機ってのは偉大だな。それは思うわ。で、たまに思うのが、アパートの通路にずらりとならんだ、外置きの洗濯機の群なのだけれども、これってなんか無駄じゃないか? みたいな。でもさ、考えてみると、どっかの知らんおっさんの下着と、自分の服が一緒に、というか、同じ洗濯機で洗われるのどうよ? 実は、ちょっと抵抗を感じる(実は、俺があまり下着に性的な関心をとくに持てない理由って、このあたりにあるんじゃないだろうか。でも、性的な関心を持つ理由も持たない理由もあるのだろうか、とも。理か? と)。となれば、俺というおっさんの下着と自分の衣服を同じ洗濯機であらうのを嫌がる人もいるだろうし、やっぱり一人一台というか、一世帯一台か、みたいな。また、その世帯というところで、「お父さんのパンツと一緒に洗わないで!」みたいな問題とかも出てくるが、家族一人に一台パーソナル洗濯機というのは聞いたことがなく、洗濯の役割というか、役目というものが……(とりとめなさすぎるのでおしまい)。