12期・14冊目 『さよならの代わりに』

さよならの代わりに (幻冬舎文庫)

さよならの代わりに (幻冬舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

「私、未来から来たの」。劇団「うさぎの眼」に所属する駆け出しの役者・和希の前に一人の美少女が現れた。彼女は劇団内で起きた殺人事件の容疑者を救うため、27年の時を超えて来たというのだ!彼女と容疑者との関係は?和希に近づく目的は?何より未来から来たという言葉の真意は?錯綜する謎を軽妙なタッチで描く青春ミステリ。

主人公は劇団「うさぎの眼」に所属する若手の役者・和希。
「うさぎの眼」の主宰者・脚本家にしてカリスマの俳優である新城に憧れて、日々自身の演劇の技能を磨く日々。
それが認められてか、少しずついい役がもらえるようになってきました。
濃密な人間関係が発生するためか、劇団内では男女がくっついたり別れたりは日常茶飯事で、現に和希の同期で仲の良い剣崎はお調子者の猿顔ではあっても、すでに3,4人ばかり付き合っては別れるを繰りかえていました。
そんな中で和希のみ、年上の女性・智美に長らく片思いを抱いていて、報われることは少なくても時々デートできるだけでも満足な日々を送っていました。
新たな公演が近づいてきたある日、和希は帰り際にある美しい少女に出会います。
お淑やかなお嬢様風で劇団、特に新城のファンだという彼女は祐菜と名乗ります。
片思いの相手がいるとはいえ、美少女と共に過ごして心地よいのが男の性。どういうわけか祐菜には放っておけない部分を感じていました。劇団のことをいろいろと話す内に次第に惹かれてゆくのです。
しかし、どういうわけか祐菜は和希におかしな頼みごとをします。
それは最終公演日に劇団№2である江藤佳織の楽屋前で見張っていてほしいと。
理由は後で教えるから何も聞かないでと言われたものの、真剣な表情から何か事情があると思い、剣崎と協力してその頼みを聞いたのですが、当日剣崎が少しばかりトイレに行った隙に何者かが楽屋に侵入して佳織を殺害したのでした。


実は祐菜は27年後の世界から来たタイムトラベラー。
殺人犯として当時不倫関係にあった新城が逮捕されたのですが、彼女はその孫にあたり、殺人者の身内として散々苦労した家族のために事件を防ごうとするも叶わず、この手で真犯人を見つけようとしていたのでした。
主人公の和希は最初の世間知らずなお嬢様風とその後のギャップに驚いたり、連絡先など重要なことは教えてくれない割にはいきなり頼みごとされたり急なデートをしたりと振り回され、心乱されるのです。
まぁ、なんだかんだ言って和希は祐菜のことが気になって仕方無いというか、人の好さが垣間見られますね。


タイムトラベル仕立てのミステリといった本作。
導入から最後の方まで大部分としては文句ないほど秀逸で、惹きこまれていくものがあります。
劇団内の人間関係については、そういうものかと思いますし、自身の意思ではままならない時間遡行を繰り返すくだりもリアリティを感じました。
今は作品の時代である2000年代と祐菜の時代である2030年代の中間にあたりますが、27年経って劇的に社会が変化するわけでもなく、変わったものもあれば変わらないものもあるという述懐は納得できます。
最後は余韻を残してきれいに終わった感じがしなくもないですが、やはり中途半端さは否めませんね。あえてはっきりさせないのが狙いなのだろうとは思いつつ。