書評:「サッカービジネスほど素敵な仕事はない―たった一人で挑戦したFCバルセロナとの取引」



セブン&アイHLDGS 会長の鈴木敏文氏曰く、「私はよく一般論として、みんなが反対することはやる価値がある、みんなが賛成することは却ってやらない方がいいと言っています。」と。


この本の著者、浜田満氏の場合まさにその選択の連続のような人生で、何度も岐路に立ち、何度も普通なら反対する方向へ舵を切ってる。


浜田氏はAmazing Sports Lab Japanの代表取締役で、日本で数々の欧州サッカークラブのオフィシャルサイトやオフィシャルショップを運営している。
事業内容はそれだけではなく、バルサACミランの日本におけるオフィシャルスクールの運営、その他マーケティング支援、コンサルティングを行っている。


この本はサッカービジネスというよりかは、回り道はしながらも、みんなが反対する道をあえて選び、その裏側にきちんとした自己投資とスキルアップをしてきた筆者の人生哲学の本と言っていいだろう。
いばらの道を歩む選択を多くしてきた著者だが、むやみやたらにイバラの道へ突入してきた訳ではない。
彼がどれだけ自己投資を行ってきたかは、下記をみればわかるだろう。


大学時代スペイン留学2回
大学時代カナダ留学

社会人時代受けた語学学校
 スペイン語、英語、フランス語、
イングランド短期留学
英語の家庭教師受講
NGOスタディーツアー


3回の転職を経て、27歳にして日本スポーツビジョン(JSV)に就職。
ファンにわかりやすく言えば、ワールドスポーツプラザを運営していた会社だ。
入社してすぐスペイン語が堪能ということでバルサ担当になり、そこで短期間ながらライセンス周りの知識と人脈を広げていく。
直後に会社が出版社の幻冬舎に買収され、さらにその後民事再生法を適用することに。
筆者はそんな中、何かバルサとビジネスはできないかと考え、ソシオの代理店業を思いつく。
そこから一気にシンデレラストーリーが始まる。
人脈を最大限活かしつつ、ビジネスプランを練り上げ、2週間のテストをクリアして彼の事業はなんとかスタートを切る。
もちろん順風満帆ではないものの、その後数々の難局を乗り越え、現在の様々な事業を行うところまでビジネスを広げてきた。


私がこの本で強く印象に残っていることは、まずこの人生の生き方がとても外人らしい生き方だと思う点。
欧米人は自分のやりたいことを常にプライオリティーの最優先として捉え、スパッと仕事をやめて転職はもちろん、大学に入り直したり、MBAコースを受講したりする。
周りの目などまるで気にしない。
自分の人生だから自分で決めて歩むというスタンスの人が多い。
それは急がば回れということでもあるのと同時に、何かを達成するには専門的な勉強を積む必要性があるという現実でもある。
当然ながら欧米社会ではそれが求められる。
著者は日本でいう総合的な学歴ではなく、必要性のある学問を自ら投資して学んだ。
それが上述の留学などに表れている。
そして結果的にその姿勢と行動力が自分のやりたいことのドアを開けた。


もう1点思うことは、やはり冒頭の鈴木会長の言葉である。
誰もが当然と思うことには、やはり新しいビジネスチャンスはないのだろう。
ソシオビジネスにチャンスを感じた日本人は2004年の時点で何人いただろうか?


本を読み終えて、独立に必要なことは
 好きであること(専門性)(勉強をする)
 誰もやっていないこと(競合が少ない)
 マーケットがあること
 そして信用と人脈
この辺りがキーワードのような気がしてならない。
実際に彼は自分のノウハウをヒューマン・アカデミーと組んで色々教える取り組みも行っている。


現在日本のプロスポーツでお金がきちんと廻っていて周辺ビジネスまで育っているのは、サッカーとゴルフと野球だろう。
中でもひょっとするとサッカーが一番の規模かもしれない。
専門ライターの数といい、こういった欧州クラブとのビジネスまで含めて幅が広い。
今後は他のスポーツでもこのような周辺ビジネスが生まれるほど環境が整うことを願いたい。
そして浜田氏の教えを受けた人間がそれをスタートできたならとてもいい循環なのだろう。
急がば回れ、自己投資をしながら、誰もが考えつかないサービスでビジネスチャンスを伺うのは今かもしれない。





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