新幹線と巡視船。

 船を出て夕暮れのタラップを降りながら、埠頭を見渡して気が付いた。船おろしされたばかりの北陸新幹線がすぐそばに仮置きされているではないか。
 周辺はほぼ全て立入禁止になっていて警備員が配置されているから近づくことはできない。写真を撮りたいが生け垣が邪魔で見通しが効かなかった。だがよく見ていると新幹線を挟んで向こう側の埠頭の端の方は海上保安庁の巡視船が停泊していて、その付近は人が立ち歩いていて出入りができそうだ。
 広い埠頭の外周を歩いて移動したが、そちら側の埠頭出入口にも警備員がいた。声をかけて他に埠頭への入口がないか尋ねると「いや、僕は知らないんですけど、どこかに出入口があるみたいですね」と奇妙な答えが返って来た。ははぁ、なるほどね。
 その秘密の出入口はすぐに見つかった。EOS 6Dに70-300mmを付けて撮影してみる。周りを見ると単に見に来ている人から自分より充実した機材を持って撮影している人まで結構な見物客がいた。


 
 突然背後の巡視船「はくさん」からサイレンが鳴り響いた。


 大した音ではないので他の見物客は気にも留めなかったが、鳴ったのが船首砲塔付近だったのでもしかすると?とレンズを向けていると、40mm機関砲塔の砲身が45°ほどに上がりハッチが開かれて乗組員達が一発ずつ手渡しで揚弾作業を開始した。砲塔内に収納ラックがあるのかもしれないがそこまでは見えない。6Dの動画モードで撮影してみるが、三脚がなく腕が攣りそうだ。ファインダーが使えれば顔と腕の三点式で構えられるからまた話は違ってくるが、やはり一眼レフでまともな動画を撮りたかったら大仰なアタッチメントを取り付けて業務用ビデオカメラと同じように構えられるようにしておかないといけなさそうだ。
 目視で10発くらいまで数えたところで再びサイレンが鳴り砲身が水平に戻され、作業終了のアナウンスが聞こえた。砲塔の電源を入れて稼動状態にする際にサイレンを鳴らす規則のようだった。
 しばらく見ていると「30分後に出港予定、各科長は出港準備を成せ」と船内放送が聞こえた。乗組員が何人も降りてきて準備作業を行う。乗船用タラップはかなり早めに取り外されてしまった。地上に降りた乗組員はどうやって船に戻るのかと思ったら、埠頭側の舷側に粗いネットが垂らされて、男性乗組員も女性乗組員もそこに岸壁から飛び付きよじ登って乗船している。平時からこういうやり方なのかと驚いた。
 埠頭側に大きなマンホールがあり、そこからケーブルが船内に引き込まれていた。「地上電源切り離し○分前、支障のあるものは操舵室へ連絡せよ」と船内放送が流れると、乗組員がマンホール内のケーブル端子の取り外し作業を始めた。直流電源をそこから取っているのか…。無線で船側とやりとりしながら取り外しが行われる。
 乗組員にとっては慌ただしい30分があっという間に過ぎ、もやい綱が埠頭側から引き抜かれて船は岸壁から離れて行った。