電話の仕組み

電話がつながって通話が始まるまで

「もしもし」と通話が始まる前に、電話網では多くの信号がやり取りされています。今回はこの、電話がつながってから通話が始まるまでの「接続機能」の流れを見ていきましょう。

 「もしもし!」。

 電話で通話する時、なぜ「もしもし」と始めるのでしょう?

 一部には、妖怪が人に話しかける時「もし」と言うので、間違われないように「もしもし」と言ったなどの俗説があるそうです。実際には、その昔の電話交換手が通話を始めるときに「申します、申します」と言っていたのが「申す、申す」となり、「もしもし」に変わったようです。

 逓信博物館の資料には、「もしもし」についてのこんなエピソードも残されています。ある地方都市に電話が初めて開通したときのこと。交換手はまだ慣れておらず、電話を利用する人も初めて。で、「もしもし」に対する返答が「亀よ、亀よ」…。ついには「もしもし亀よ亀さんよ」と二人で歌いだしてしまったんだそうです。

 さて今回は、この「もしもし」に至るまでの流れ、つまり電話がつながってから通話相手を呼び出し、通話相手が応答して通話中になるまでの「接続機能」についてお話します。

電話網は二つの網でできている

 電話がつながって通話が始まるまでには、電話網で何度かのやり取りがあります。この仕組みを知るために、まず電話網がどんなネットワークなのかを見ておきましょう。

 現在の電話網は、実は2種類の網で構成しています(図1)。一つは、通話の音声を通すための通話路網(通話パス)です。もう一つの網は、信号網といいます。信号網は、電話をかける人が話したい相手に接続するように要求する信号や、通話相手の呼び出し、通話相手からの応答、電話を切るといった一連の動作を制御する信号をやりとりする網です。


図1 電話網は音声の通り道「通話路網」と制御信号の通り道「信号網」で構成する

 信号網を介した信号のやりとりを「共通線信号方式」と呼んでいます。共通線信号方式は1990年ごろから導入が始まり、1995年にすべての交換機が電子化されたのに伴って全国で導入されました。

 共通線信号方式が登場する以前は、交換機間の通話パスにダイヤル・パルス信号や周波数信号でバケツリレーのように情報を転送し、着信側の交換機まで送る方式を使っていました。この方式では信号を送り出すのに時間がかかります。このため、電話をつなぐために最低限必要な着信側の電話番号だけを転送していました。発信者の電話番号や、その他サービス情報などは転送できなかったのです。

 共通線信号方式を導入したことで、従来より高速に多くの情報を交換機間でやり取りできるようになりました。結果、発信者番号を表示する「ナンバーディスプレイ」など、多様なサービスが実現しました。

呼び出し音は着信側の交換機から、話中音は発信側の交換機から聞こえる

 それでは、県内市外通話を例に電話がつながって通話が始まるまでの手順を見ていきましょう(図2)。県間通話の場合は、長距離事業者との接続が入る分、手順がやや複雑になります。


図2 通話が始まるまでの流れ

 まず、発信者Aが電話番号をダイヤルすると、発信側の加入者線交換機が電話番号を受信します。加入者線交換機は信号網に接続を要求する信号(接続要求信号)を送出します(図2-I-1)。この信号には、着信者、発信者それぞれの電話番号などが含まれています。接続要求信号は信号網を経由して中継交換機に届きます。

 信号を受け取った中継交換機は、前回お話ししたルーティング(関連記事)で着信側の交換機を識別します。その後、接続要求信号を着信側加入者線交換機に転送します(図2-I-2)。

 接続要求信号を受信した着信側の交換機は、着信者Bさんが通話できるかどうかを調べます(図2-I-3)。一方、信号をやり取りした各交換機は、交換機間の通話パスを予約。呼び出し音の伝送や通話の準備に入ります(図2-I-4)。

 着信側の交換機は、着信者Bが通話できる状態(空き状態)であれば、着信者の回線の極性を反転(注1)した後にリリリリーンという呼び出し信号、発信者にプルルゥという呼び出し音(RBT:Ring Back Tone)を送出します(図2-II-5)。Bが通話中の場合は、話中であることを共通線信号により各交換機に返送。これを受信した発信側の加入者線交換機が、発信者Aに話中音(BT:Busy Tone)を送り出します。

 つまり、発信者Aの電話機から聞こえる音は、呼び出し音は着信側の交換機から、話中音は発信側の交換機から送出しているわけです。

 ちなみに「おかけになった電話番号は、現在使われていません」というガイダンスは、発信側の交換機が送出します。着信側の交換機が使われていない番号であるとの信号を、発信側の交換機に返送しているのです。

 共通線信号方式が導入される前は、信号を送り返す処理ができませんでした。このため、ほとんどの音やガイダンスは着信側の交換機から送出していました。地域によって妙にお国なまりのあるガイダンスが流れていたことが記憶にあります。

注1:極性反転とは、電話線を構成する2本の線の電気的なプラスとマイナスを入れ替えること。


Bが受話器を上げたことが交換機を伝わって通話開始

 着信者Bのベルが鳴り、受話器を上げることを「応答」と呼びます(図2-III-6)。このとき、回線がループ閉成されるのを「応答信号」と呼びます。応答信号を検出した着信側の交換機は着信者Bへの呼び出し信号を止めます。さらに発信者Aへの呼び出し音(RBT)を停止し、中継交換機と発信側の交換機に着信者Bが応答したことを伝える情報を送信します(図2-III-7、8)。

 応答したとの情報を受け取った発信側の交換機は、発信者Aの回線の極性を反転させて、通話中の状態に切り替えます(図2-III-9)。 これで、発信者Aと着信者Bは通話中の状態となり、冒頭に述べた「もしもし」〜「亀よ」……じゃなかった、「もしもし」〜「ハイハイ」となり、お話しが始まります。

 ただし、NTT東西以外の事業者のサービスと接続した場合などには、極性を反転させないこともあります。

ベルや呼び出し音の鳴っている時間と鳴っていない時間。どちらが長い?

 「リリリリ〜ン…………リリリリ〜ン」、「プルルル〜…………プルルル〜」

 電話のベルと呼び出し音ですが、鳴っている時間と鳴っていない時間はどちらが長いでしょうか?

 「鳴っている時間が長い」「同じ」と答える人が結構多いようです。耳に余韻が残るからでしょう。実は正解は、「鳴っている時間のほうがはるかに短い」です。1秒鳴って2秒休んでいるのです(図3)。


図3 呼出音は鳴っていない時間の方が長い

 この音は、全ての人に同じタイミングで聞こえるわけではありません。3段階に分けてランダムに鳴らしているのです。使用電力を平均化するためです。

 したがって、ベルを一度鳴らして切ることで合図や連絡に使う手法をよく見かけますが、お勧めできません。自分の電話から「プルルル〜」と聞こえても、相手に「リリリリ〜ン」と鳴ったかどうかは保証できませんから。

 今回はこのあたりで終わりです。次回は発信者番号通知の仕組みや通話の終了、切断について説明します。