八月の熱のように醒めない





黒澤明松田優作勝新太郎
一時代を築いた故人の評伝を立て続けに読んだ。
映画も社会も我儘を通せなくなった時代になり、
アクの強い男たちは記憶の中に埋没していく。
それが寂しくもあり、ついつい手に取ってしまうのか。


多かれ少なかれ、ひとつの思いを実現させるには、
周りの犠牲や迷惑はつきもの。
それでも納得させるたたずまいや意志がなければできない。
況や周りの者の多くも愛憎半々ながら己の中に存在しない修羅に畏怖し、
彼らの声に耳を傾けたに相違ない。


なぜ、そんなにこだわるのか?
なぜ、そこまではみ出せるのか?
八月の熱のように醒めない、
大いなる無駄と軋轢と幼稚さを前にして、
今の生一本な若者たちにはもう理解できないだろう。


あきらめに浸り、憤ることを忘れ、
車窓から流れる景色をぼんやりながめる。
いま過ぎ去った景色がどれほど大切なものかも知らされずに。
すべては赤銅色の八月の熱の中に溶けて、
彼等の雄々しい息遣いは遠ざかるばかり。