モーニングバリ

*モーニングバリ




漆黒の夜が明けて、遠くの水平線が赤みを帯び始める。
まだ眠たい目をこするようにじんわりと時間は流れ、
人々に静寂なリズムを刻んで、ハンモックみたいに揺り起こす。
老犬が訳知り顔で海をみつめている。
私に気がつくと、憐れんだ表情を浮かべて駆けていった。
仕方ない。
ゆうべの喧騒を連れ去った白濁る波頭に足を入れ、
ついでに打ちひしがれた夢の残骸を流そう。
遠い異国のかなしみもここでは稀有な心配。
ただ起き上がるだけの勇気があればよい。
やがて波の音がこの耳にはっきりと響きわたれば、
どこかしこで祈り声も聞かれよう。


私は波間をつたって歩く。
ちょうど昨日と今日の境を歩くような気分で。
他愛ないヴァカンス、そして幾許かの慈愛に満ちたアペリティフ
投げ出された記憶、それから戻るサンライズ


風は椰子の木をゆすり、白い巨大な割れ門をくぐり抜けて
眠る街角へと舵を切っていく。
ドアをたたき、鼓動をノックし、鼻をくすぐる。
私は波間をつたって歩く。
砂浜に後悔のルージュを引くように。
この地にたどりついたはいいが、
この地から離れることばかりを考える。
人はちっぽけな理想を夜どおし夢見て、
朝日が昇るとともに抗う波に砕ける。
頭から抜けぬ棘はどこに行っても抜けぬものだと知るころには、
日はすっかり上がり、
またいつものリゾート然とした幸福が頭をもたげ始める。