感想 ろくごまるに 『桐咲キセキのキセキ』

桐咲キセキのキセキ (GA文庫)

桐咲キセキのキセキ (GA文庫)

 内容を要約すると、「遊撃部長Kのキセキ」。題名は「桐咲キセキの」ってなってますが、基本的にこの話は遊撃部長K視点が多い*1ゆえに、メインヒーロー*2の役割である桐咲キセキより、むしろそれに絡んだKの話、と見てしまえる話となっております。そのせいなのか、ある意味真っ当な像があるキセキやKより、端で話をむやむやにする夢月さんのが輝いて見える、という不思議現象が発生していたりも。良くも悪くもキセキ達が真っ当だから、夢月さんが怪しの光を発してるってのは分かるんですが、それでも真っ当過ぎるのかしらね、とか何とか思ってみたり。
 さておき。
 『封仙娘娘』シリーズが終わってから初のろくごまるにタイトル、ということでどういう手を打ってくるのかという期待に胸膨らませて読んだわけですが、良くも悪くもろくごまるに味としか言えない、味はあるんだけど噛み応えが不可思議なふあふあ感に満ちた作品となっており、正直に言いましてこの小説どこ向いてるの? と思わずにはいても立ってもいられません。初っ端からチェーンソーでSFチックな相手をぶっ倒したと思ったら、ミステリーのような雰囲気を発するだけはしてみたり、伝奇的な特能バトル(BY夢月さん)かと思ったらわりあいあっさり目の終わり方を見せ付けたり、はたまた正統派の読み合い試合かと思ったらそんなことはなかったぜ! というはぐらかし方を叩き込んできたり、と微妙に、半歩、あるいは33と3分の1歩ほど歩みをずらした見せ方をしてきて、若干以上にトリッキーな作風を開陳してきていますが、これだけ色々盛り込んだのは、どれか当たったら幸い、くらいの下手な鉄砲理論なのかとも思われますが、それらがきっちり有機的に繋がってもいるんだから、さあ困った。要素がちりばめられすぎていて、それらをどう回収してもこちらはいいんだが? って顔でどこに着水するのか全く不明の投げ出され方なんですよ。どういう話にも変われるぜ俺は、って面構え。そして本当に出来そうな自信に満ち溢れた顔つき。ホント、どう言えばいいんだ。続き出ろ! が一番言いたい言葉ですけれども。
 さておき。
 とりあえずその辺はおっぽり出してキャラの話をすると、上でも言ったようにメインキャラであるキセキがあんまりぶれないせいで、魅力が見出しづらい、というか、ぶっちゃけ普通*3、としか言いようの無い立ち位置であるのに対し、サブキャラである夢月さんがあまりにいいのです。地位や力が特に無いのも関わらず行動力だけは無駄にある辺りとか。その上で豪胆なのか何も考えてないのか、で言うと豪胆のタイプなんですが、それでもわりと瞬間で生きているタイプでもあり、そのせいで何も考えてないんじゃないか、ともやっぱり思えてしまう、でも、いい人ではあって愛すべきすっとこどっこいとでも言いましょうか。『封仙』で言うと明らかに青嵐大帝のラインのキャラで、今後活躍する場が特に無さそうな雰囲気も合わせて魅力的であったりします。しかし、このすっとこどっこいと友達出来るキセキは良く考えると凄いヤツなのかもなあ。もし隣にいたらこつかない事は無さそうな、迷惑と迷惑の紙一重だってのに。

*1:一人称、三人小称が混在してるけど、どちらにしてもKよりの視点が多い。

*2:ヒロイン属性が無いわけじゃないけど、むしろヒロインはKかもしれないしなあ。

*3:真っ当という方がいいけれど。