市民が取り組む国土強靭化計画

現在、国は公共事業として国土強靭化計画が進めているが、それは大災害に備える防災対策として必要だからだ。しかし防災対策は道路や施設の整備だけではない。私たち市民が取り組む防災対策も重要な国土強靭化計画の一つ。市民が取り組む防災対策というと消化訓練と防災グッズが頭に浮かぶ。しかしそれだけで防災対策として充分なのか。
以前、東南海地震の時に救助部隊が到着するまで2週間かかるという発表がされた。しかし私たちの考えている防災対策は2週間という期間を想定しているのか。家庭における防災食料は平均3日。4日目以降10日間の食料はどこに備蓄しているのか。更に大災害では電気、ガス、水道という公共インフラが停止してしまうが、10日間の燃料と水は何処にあるのか。
皆さんの避難場所の食料備蓄はどの程度あるか調べてみる必要がある。更に避難場所には何人の人が避難してくるのか調べてみる。大変なことが分かると思う。私の地域の避難場所の食料備蓄は地域の全員が避難してきた場合、1日で無くなることが分かった。更に、近くの航空自衛隊基地を見学に行き、食料備蓄を調べたら、そこには自衛隊員の食料備蓄しか無かった。3.11の時は遠くの県の基地からヘリコプターで食料が運ばれ、それを被災地にヘリコプターで運んでいたそうだ。
そこでもう一つの問題が浮かび上がった。最近、ニュースでも報道された富士山の噴火。火山弾が遠くまで飛んでくるという被害想定がされているが、問題は火山灰。火山灰が大量に降ったらヘリコプターは飛べない。もちろん周辺の道路は通行不能となる。そうなると最低10日間の食料を確保しておかないと大変なことになることは誰でも想像できる。10日間では餓死しないかもしれないが、老人や子供は大変なことになる。
以前、この欄でスイスの防災について書いたが、スイスでは半年間、国民が飢えない対策を講じている。国土を強靭にするために道路や堤防も整備しなければならないが、防災とは初期、中期、長期で考えるものだ。初期防災は誰もが意識しているが、中期や長期の防災は殆ど意識していない。これを日本人の国民性と言って片付けてしまうのは簡単だが、何時起こるか分からないし、起きた後で考えても後の祭りなのだ。
ここで殆どの人は国や市町村が対策を考えるべきだという議論をする。しかし災害は議論を待ってくれない。スイスと同じく、以前、この欄でシエーナウの想いという文章を書いたが、国の政策を待つのではなく、地域の暮らしと命を守る活動は市民が自ら取り組むことが必要なのだ。
私はこのスイスとドイツの教訓を活かして地域から取り組みを始めている。10年前から始めている地域の交流イベント活動を防災活動に転換する活動である。それは交流活動として展開してきた様々なイベント(餅つき、ソーメン流し、収穫祭等)を防災の視点で組み直すことから始めた。地域防災の基本は食料と燃料と水。その3点を拠点に整備し、地域住民の手で10日以上の炊き出しが可能となる仕組みを作った。水は拠点にホタル用の井戸を作り、更に手押しポンプを整備した。燃料は拠点の敷地内の大量の間伐材を薪にして、乾燥したものからイベントで使用。食料は5kgのお米をランニングストックとして家庭に置く運動を展開する予定。最近の家庭ではお米は何時でも手に入ると思い、殆ど在庫を置いていない。お米は完全栄養食であり、保存食では無いので家庭に置き場所を確保すれば問題はない。更に玄米で仕入れている米屋と災害時に協力してくれる産地を結びつけ、日常的にそこの産地の米を食べるようにしてゆけば、長期防災にも役立つ。拠点周辺の農地はスイスのように食料備蓄基地として位置づけ、農家の協力態勢を取り付ける準備をしている。蛇足であるが、この取組は地域住民が支援する究極の都市農地対策ではないかと思っている。更に、飢餓の究極対策として、拠点周辺にある農地で動物や植物の生きもの調査を子どもたちと一緒にし、食べられるかと食べ方について教えようと思っている。
私の生きている時に大災害は起きないかもしれないが、このような取り組みを日常的にしておれば、戦争が起きた時でも生き残れる持続可能な地域になることは間違いない。これはスイスの国防とシェーナウの市民活動を手本にした、市民による税金を使わない国土強靭化計画ではないだろうか。