柳澤健『1974年のサマークリスマス』

・「科学的立証」というそうだ。

ある生物学研究者がノミの実験をした。
机の上にノミを置き、「跳べ!」といった。
ノミは3メートル跳んだ。
研究者は「跳躍距離3メートル」と記録した。
その後、足をもう一本切りとり「跳べ!」といった。
ノミは2メートルしか跳ばなかった。
研究者は「跳躍距離2メートル」と記録した。
それからまた、べつの足を切りとり、「跳べ!」。
ノミは1.5メートル跳んだのでそのように記録した。
その後も研究者はノミの足を切りとり続けた。
そして、とうとう一本の足もなくなってしまったノミを
机の上に置き、「跳べ!」といった。
ノミは動かない。
研究者はいう。「跳べ!」
ノミはピクともしない。
そんなわけで、彼はこう記録した。
「ノミは足をぜんぶ切りとられると耳が聞こえなくなる」

・中学3年のころ、TBSラジオの深夜1時から3時までは
 パックインミュージックを聴きながら受験勉強していた。
 わたしの家はむかしからラジオはTBS派だったから、
 深夜放送もパック派だった。
・そう金曜日のパーソナリティーはナッチャコ。
 通称ナッチャコパック。これはもう深夜放送の王道。
・そのあとのパック第二部が深夜3時から5時までで、パーソナリティー
 林美雄だった。深夜3時からだから、いつも途中で寝落ちしていたんだ
 と思う。
          
・この「科学的立証」が林美雄が読んだときには、足をもがれた蚤が
 かわいそうでなんと悲しい詩なんだろうと思った。だれの詩かわから
 なかったのだが、最近、「科学的立証」というアメリカのブラック
 ジョークだと知った。
林美雄パックがそんなに好きなわけではなかったが、この「科学的立証」
 だけ40年以上もあたまのなかに残っていた。
          
柳澤健『1974年のサマークリスマス』(集英社)読了。

柳澤健『1974年のサマークリスマス』

・いやあ、この本おもしろかった。この「科学的立証」のことも書いてあった。
・1974年当時の時代の雰囲気をこれほど思い出させてくれる本もないなと
 思った。著者はわたしよりひとつ下だからかな。

勉強部屋でひとり孤独にラジオを聴くリスナーは、パーソナリティの孤独に
共鳴する。かくしてパーソナリティは頼れる兄貴となり、ヴァーチャルな
恋人なっていく

・ほんとそうだね。

君が生きている時代に、きちんと向き合って生きようよ。目を背けるな、
逃げるな、避けるな。僕はそう言い続けたつもり

・これはパックをどのような番組にするかという先輩アナウンサーの
 桝井論平のことばだが。TBSラジオ荻上ちきセッション22」をよく
 聴いているがこのことばがあてはまるな。TBSラジオの伝統なのか。
ユーミンがこの林美雄パックから紹介されたというが、覚えてない。
 やっぱりはじまってすぐに寝落ちしてしまっていたんだろう。
          

・この本の装丁は好きだなあ。林美雄の写真がいいからかもしれないが、
 文字の配置、文字色の使い方が抜群。装丁は、島田隆。
          
・もうすこしきちんと読書感想文を書くつもりだったのに書けないな。