柿(カキ)

henri772004-11-02


柿の季節になった。昔は、どこの家でも表庭には柿、裏庭には無花果が植えてあったのを思い出す。最近は、産地にでも出かけないと、鈴なりの実をつける見事な木にはお目にかかれなくなった。裏庭の無花果も誰が言い出したのか、縁起が悪いと抜いてしまった人が多い様だ。子供の頃は僕だけかも知れないが、木登りや人様の庭の果物を盗み食いするのが遊びの定番だった。柿の木は折れ易いからと良く大人から注意されたものだ。今、木に登っている子供などいなくなってしまったのだろうか。スーパーなどには産地からの甘い柿の実が並ぶのだが、少々いびつでも枝付きの柿を野菜市場から買ってくる。食べる迄、枝のまま放っておくとちょっとした秋の彩りが楽しめるからだ。

柿は外国でもKAKIと呼ばれ、日本の田舎の風景に良く似合う。化石を調べると縄文時代から生えていて、食料や数少ない甘みの嗜好品としてだけではなく、日常の生活に密接に関わる植物だったらしい。柿渋(かきしぶ)の利用である。調べた訳ではないので真偽は保証しかねるが「渋い趣味」という時の「渋い」は柿渋染めから来ているのでは無いかと思う。柿渋は青い柿を摺り卸して搾り取った液体を瓶で発酵させて作る。昔は結構あちこちの家で藍の瓶と柿渋の瓶を持っていて、日常の染めに使ったらしい。特に柿渋は防虫性や防水性があるので、漁労網や番傘、張り子の保存箱等に使われた。鰻屋さんがパタパタやっているあの団扇も本来柿渋染めである。和紙に強度と防水性を持たせるためだ。最近はリバイバルで染料や塗料として見直されているらしい。大歓迎だ。

柿と言えば干し柿、特に干し柿の膾(なます)は大好物だ。大根や人参などを塩揉みして裂いた干し柿を混ぜ込み、ごくごく控えめに甘みを補った酢の味を染ませる。果糖の上品な甘さをゆっくり楽しめる秀逸な箸休めだ。また、大根を薄くスライスして塩でしんなりさせたもので、この干し柿とゆずの刻んだものをくるくると端から巻き込み、やはり甘酢につけ込む。数本を巻物の様に気の利いたお皿に盛りつければ、大層上等なお茶請けとなる。しばらくご無沙汰しているが、来年は渋柿を取り寄せて干し柿を手作りしてみようかと思う。