ルーンワース 黒衣の貴公子

T&Eソフトの代表作「ハイドライド」シリーズ完結後に発表されたARPG「ルーンワース」シリーズ第一作。PC-8801版とMSX2版が同時期に発売、後にPC-9801X68000にも移植された。

タイトル:ルーンワース 黒衣の貴公子
発売年:1990〜
機種:MSX2PC-8801PC-9801X68000
開発:T&Eソフト

ゲームデザインハイドライドと同じく内藤時浩氏。その内藤氏、mixiコミュニティでこんなこと言ってます。

ルーンワースの試みは失敗しましたが、あれはヘンにストーリーも付けたからで、

失敗作かよ!

補足しておくと、文の前後と合わせると「考案したシステムが快適さや面白さに結び付かなかった」と取れる。元々内藤氏は「ゲームにストーリーなぞ不要」という考えの持ち主だから、ルーンワースの世界観なんてものをくっつけられたのも不本意だったのかも知れない。

私はまずMSX2でプレイし、後にPC-9801版をプレイした。面白いかどうかを言うなら、私は面白いと思う。しかし欠点も多い。

ネットを検索してみたところ、とりわけこのレビューはルーンワースの突っ込みどころを過不足なくユーモラスに指摘している。

http://hccweb1.bai.ne.jp/gokuisho/gokasen/102_anta_runeworth1.html (リンク切れ)

唯一首をかしげたのは「ディーヴァのストーリーがひどかった」というくだりだが、別のゲームの話なので深入りしない。

端的に言えば「緻密かつ膨大な世界観の設定がゲーム内容にてんで生かされていない」と。

ここではひとまず、あの設定はオマケだったのだと無理やり納得して、ゲームシステムの特色をいくつか。

経験値がない

なんとRPGなのに経験値がない。その代わりに、あちこちに置いてある宝箱(誰が何のために置いたのかは謎)に、レベルアップアイテムというものが入ってることがある。これらのアイテムを使うと、体力アップ、魔力アップ、武器レベルアップ、魔法習得といった形で主人公が強くなって行く。

経験値稼ぎのかったるさの払拭を狙って考案されたシステムだが、結局は「アイテム探し」がかったるかった……。

経験値がないということは、雑魚キャラとの戦闘にはメリットがないということ。倒しても金をくれたりもしない。しかも、雑魚キャラ達が理不尽に強い。下手に戦って毒に侵されたり魔法が使えなくなったりすると泣きたくなる。雑魚キャラとは接触しない、邪魔な時は魔法で吹き飛ばす(or無敵になる)のが得策。爽快感ゼロ。要するにアクションの部分が面白くないわけ。

好きな街から、好きなイベントから手を付けられる

つまりストーリーが一本道ではないということなんだが、楽に攻略するには「簡単な順」に手を付けるのが一番であって、結局は一本道に感じたなあ。ある街へ行くのに2通りの方法があるとか、お姫様の成人の儀式を見られたり見られなかったりとか、小さな違いがあるくらいでね。

それから、ストーリーと直接関係のない、レベルアップのためだけのアクション場面が3ヶ所もあった(妖精の国、無法都市、ラマスカエルね)。クリアした後が空しいのなんの。本筋とちゃんと絡めてほしかったよ。あれも今で言う「クエスト」の発想だったのかなあ。

一度外に出てしまうと二度と入れないマップもあったなあ。アイテムの取り残しが悲しかった。

緻密なキャラアニメーション

これは結構インパクトあった。主人公の小さいキャラ(MSXは16×24ドットかな?)が、扉を開けたり宝箱を開け閉めしたり立ったり屈みこんだり、いちいちアニメーションする。この動きが滑らかで気持ちいいんだ。くだんのレビューにもあるように、宝箱を丁寧に閉めている間に敵の攻撃を食らうのはどうかと思うが。

うにょうにょ動くボスキャラも見もの。戦闘はつまんないけど……。

呪文を唱える演出

これもアニメーション効果のひとつ。メニューで呪文を選ぶと、主人公が精神集中してあやしげな呪文を唱える。

「ホイッツ・ラーン・ラーン・ミル・フェムル」なんて文字が“一字一字”並ぶ。(こんな呪文よく考えると思うよ。どこかの言葉を元に作ってるのかしらん?)

このビジュアルがまた凝ってるんだ。小さいキャラながら、主人公の周りを光がウニョウニョして、唱え終わると画面がパッと光る。当時ここまで凝ったゲームはなかった。

しかも唱えている間も敵は動く。攻撃されると呪文は中断されてしまう。真の狙いはこのリアリティ。この部分は評価されていいと思う。


ゲームシステムの特色はこんなところかなあ。マップを憶えるのが壊滅的に苦手なもので、同じところをグルグル回って閉口した。観念してルーズリーフにちまちまマッピングしたことも。これがまたマッピングし辛いんだわ。Windowsエミュレータでプレイした時は、画面をキャプチャしてフォトショップで繋げるという、これまた気の遠くなる作業をしましたよ。クリアできた時点でマッピングは中断したけど。

ただ、街の中でアイテムショップなのか酒場なのか宿屋なのか、外観からわからないのはなんとかしてほしかったなあ。街並みも憶えられなくってさあ……。

主人公のガラの悪いキャラは結構笑えた。いかにもT&Eソフトな乗りは好きだねえ。エンディングの陳腐さはジンマシンものだけど、それはハイドライド3からの伝統ということで納得……しねえよ!

BGM考

さて、このゲームで語らないわけに行かないのがBGMだ。いや、私が語りたいだけですが。

この頃、T&Eソフトにはサウンドリエーターが2人いた。

冨田茂氏と長谷川和伯氏。はっきり言おう。冨田氏(ハイドライド3のヒト)の曲は好きだが長谷川氏のは好きじゃない。ルーンワースでは、二人とも作曲を手がけており、曲によって出来不出来の差が激しい、と思う。全35曲+1。どの曲を誰というデータは公にされていないが、主に街のBGMは冨田氏、アクション場面は長谷川氏が受け持っているようだ。

以下が曲目リスト。担当者(T=冨田茂、H=長谷川和伯)は私の推測。間違ってたら誰か教えて下さい。特にオープニングとエンディングは自信なし。

1.サリスの滅亡(H?)/2.ルーンワースのテーマ(H?)/3.旅立ち(H)/4.サノバ砦(T)/5.神聖サイア王国(T)/6.ウェイデニッツ公国(T)/7.バハマーン神国(H)/8.シャタパーサ連邦(T?)/9.ウェーデル山脈(T)/10.おーたま(H)/11.祈り(H)/12.もったいない(T)/13.5時から男のために(T)/14.死んでまった(H)/15.KANA−P(T)/16.もっとKANA−P(H)/17.URE−P(T)/18.ミリムはオ・ト・ナ(H)/19.うわらば!(H)/20.神々のガミガミ(T)/21.危険がアブナイ(H)(未使用?)/22.永久凍土(H)/23.オールマムの野望(H)/24.戦慄の魔導士(H)/25.あやかしの塔(H)/26.サータルスの導き(H)/27.無法都市(H)/28.ラマスカエル燃ゆ(H)/29.エリースの涙(H)/30.暗殺魔術団ヴィーフォ(H)/31.暗黒からの脱出(H)/32.限りなき戦い(H)/33.邪神復活(H)/34.やすらぎ(T?)/35.明日がふり返る(T?)/36.ゲームオーバー(H)※CD未収録

ところで、このゲームのサウンドトラックにはPC-88版(サウンドボード2)が収録されているが、冨田氏作曲のものに限って言えば、一部例外を除いてMSX2版(FM音源)の方が断然いい。2オペレーターというなんじゃそりゃなFM音源ながら、アレンジが実に巧み。

特にクラリネットとリコーダーの合いの子のような音色は秀逸(もしかしたらサックスみたいなイメージで作った音色かも)。これがどういうわけか、サウンドボード2ではエレキピアノのできそこないみたいな音色が使われていて涼やかな雰囲気がぶち壊しだ。木管楽器系の音を使った曲もあるが、やや濃厚でアタックが弱いため軽快な曲には合わない。リズム音もサウンドボード2版は(特にスネアドラムが)耳に障る。MSX版は、ペコペコパコパコとちゃちな音だけれど、これがむしろ曲想には合っていた。

冨田茂氏の傑作というとハイドライド3を真っ先に挙げる人が多いが、ルーンワースも捨て難い。少なくとも曲作りのテクニック面では格段に進化しているように思う。

ちなみにMSX2FM音源は6音+リズム音(PSG3音は基本的に効果音用)。FM音源非搭載機だとBGMはPSG3音で鳴るが、こりはさすがに無理があったかな。

PC-88のサウンドボード1と、PC-98FM音源3音+PSG3音。MSX版に比べるとちゃちに聞こえた。

X68000版は、サウンドボード2と同等かそれ以上のFM音源(8音)を搭載しているにもかかわらず、同じクリエーターが作ったとは到底思えない低調なできだった。過密スケジュールで突貫工事にせざるを得なかったのか、それとも別のスタッフが作りでもしたのか事情はわからないが、残念としか言いようがない。

ルーンワースの音楽が好きで、MSX版を聴いたことがないという人はぜひ一度聴いてみてほしい。MSXマガジン3に収録されている。グラフィックはX68000版に次いでキレイだし、エミュレータの処理速度も変更できるのでおすすめ。Vistaでも動くよ。

一方、長谷川氏担当の曲は、MSX版はよろしくない。オープニングはそうでもないが、総じてリード系の音が耳障りで長時間聴いていられない。サウンドボード2版の方がまだ聴ける。「無法都市」「暗黒からの脱出」「邪神復活」なんかは好きだけど、あれでリード系の音色にもうちょい艶と粘りがあればねえ。

学生時代、上の中の7曲を耳コピーしてMIDI化したよ。ド音痴のくせに我ながらよくやったと思うわ……。「ザノバ砦」で挫折したのは悔しかったばい。

手書きマップ

みっけ。おーバッチリじゃん、これ。(但し通り抜け壁の記載はなし)

http://flora.main.jp/frac7.html

ルーンワース2,3

続編はPC-9801版しか発売されず。8ビット機が急速に衰退し始めた頃だったせいかMSXやPC-88には移植されなかった。そこそこ売れていたようだがなぜかX68000への移植もなし。
プロジェクトEGGで買えます。
http://www.amusement-center.com/project/egg/

タイトル:ルーンワース2 時空の神戦、ルーンワース3 新聖紀光臨
発売年:1991
機種:PC-9801
開発:T&Eソフト

2と3では、同じシステムで2本のゲームを作るという方法で低価格化を実現。1本のソフトを2本に分けて発売しただけという印象なきにしもあらずだが、2から3にかけては操作面で結構改良されていた。
さてゲーム内容だが……とにかく快適さを追求して前作をとことん改良した跡が伺える作品。が、プレイした印象としては、「やけにフツウのゲームになっちまったなあ」。
まず副題がよくない。
第1作「黒衣の貴公子」が特別いいとは言わないが、謎めいた魅力はある。それが
第2作「時空の神戦」
第3作「新聖紀光臨」
芸も捻りもありゃしない。第4作は「新たなる旅立ち」とか言わねえだろうな、とこれは当時のT&Eの社員のギャグ。
内容的には、快適さはアップ、突っ込みどころもこれといって見当たらない。でもそれだけ、という。面白いことは面白いけれども、これが「ARPGの新しいスタイル」として打ち出したシリーズの最終作かと思うと、インパクトの薄さは寂しい限り。
おっと、そういえば第2作、第3作で新しい試みがひとつあった。

演出は全て原寸キャラで

えっとつまり、普段は画面内を動きまわるのは小さなキャラだけれど、ストーリーの節目節目でドンと大きな絵が出るという演出が当時は当たり前だったわけ。それが「映画さながら」とか褒めそやされる風潮に「アンタら本当に映画観たことあんの?」と異を唱え、あえて小さなキャラのまま全てを演出するという手法を打ち出したと。
その是非は置いといて、実際演出は前作以上に凝っている。オープニングでの魔法の応酬なんかは、当時はホホ〜と感心して見たものだ。風や波の表現もなかなかお見事でした。
ただ、前作から引き継がれた、扉や宝箱の開閉なんかは、キャラが大きくなったせいなのかフレーム数が減ったせいなのか、動きが粗く見えて残念だった。

アクションシーン

アクションシーンはだいぶ快適になった。敵の強さは適度だし、倒すとアイテムを落とすことがある。剣から繰り出されるビーム(?)もかっちょいい。ボス戦も、前作では体力回復剤を大量に持っていれば楽勝という大味なものだったのが、それなりにスリリングなものになっている。
しかしマッピングが……。建物の構造が凝っててさあ、手書きのマッピングなんてできたものじゃない。ひたすら迷路をさまよって……ああ疲れた。ほんとこういうの苦手だなあ。

処理速度

ちょっと遅かった……。そして新し目の機種の高速なモードでは「動作しない」。ここは残念だった。
それでもT&Eソフトのプログラム技術は高い部類だった。PC-98であれでは8ビット機への移植は無謀だったろうなあ。

帰りたい・帰れない

ルーンワース3はほぼ面クリア形式となっている。つまりアイテムを取りこぼしたらそれっきり。低いレベルで最後の迷宮に行ったら悲劇です。この辺はどうにかしてほしかったなあ。
それに、ARPG(アクティブRPG)とはいっても、アクション主体にしたら正当アクションゲームには敵わないんだよなあ。アクションゲームとしてもRPGとしても中途半端だった、という悲しい結論。

遊びの要素

あの真面目くさった副題からして嫌な予感はしたさ。前作みたいなオチャラケが殆どないのね。せいぜい、前作の大食いの王様の子孫(?)がやっぱりデブの大食いでした、というくらいで。神出鬼没の謎の男(ガジェだっけ?)が登場する度に大仰な曲が流れるというのもあったけど、曲がいまいちで滑り気味だった。あと「ダカンチャゲーム」っていうのもあったか。抽選でアイテムがもらえるという(ゲーム内での話ね)、それだけだけど。
主人公がどうにもいい子ちゃんでねえ。「オヤジの頭に蹴りを入れてやった」とか、そういうのまったくなし。
はっきりいって当時のゲームのストーリーなんて程度が知れてるんだよね。それを真面目一辺倒でやられても。だったら小説読んだ方がいいよってなっちゃう。

BGM

担当者は全然知らない名前だった……。
FM3音PSG3音という制約を考えれば、音作りに関してはかなりのテクニックの持ち主だとは思った。
けど曲自体に魅力がないのね。それらしくまとめましたっていうレベルで、まるで耳に残らない。気に入った曲はゼロ。アクションシーンだと、部屋を移る度に曲が振り出しに戻るから、同じフレーズばかり聞かされて、それも苦痛だったなあ。街のBGMが1曲だけというのも寂しい。

エンディング

恥を忍んで言います。意味わかりませんでした。
第3弾のエンディング、何がどうなったんですか。