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himaginaryの日記

2012-06-23

古き予言はまことであった

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リカード比較優位の原理を検証した研究をMITニュースが紹介しているEconomist’s View経由)。


著者名(Arnaud Costinot and Dave Donaldson)でぐぐってみるとIDEASでの該当論文へのリンク(NBER版CEPR版;いずれも本文は登録者しか読めない)が見つかったので、以下にその要旨を紹介してみる。

When asked to name one proposition in the social sciences that is both true and non-trivial, Paul Samuelson famously replied: 'Ricardo's theory of comparative advantage'. Truth, however, in Samuelson's reply refers to the fact that Ricardo's theory of comparative advantage is mathematically correct, not that it is empirically valid. The goal of this paper is to assess the empirical performance of Ricardo's ideas. We use novel agricultural data that describe the productivity in 17 crops of 1.6 million parcels of land in 55 countries around the world. Crucially, this dataset contains information about the productivity of each parcel of land in all crops, not just those that are currently being grown. This direct information about relative productivity differences across economic activities allows us to compute, for the first time, the output predicted by Ricardo's theory of comparative advantage. Despite all of the real-world considerations from which this theory abstracts, we find that Ricardo's theory of comparative advantage has significant explanatory power in the data, at least within the scope of our analysis.

(拙訳)

真実であり、かつ、自明でない社会科学の命題を一つ挙げよと問われて、ポール・サミュエルソンが「リカード比較優位論」と答えたのは有名な話である。しかし、その回答でサミュエルソンが真実としたのはリカード比較優位論が数学的に正しいという事実であり、実証的に正しいということでは無かった。本論文の目的は、リカードの考えの実証的な有効性を検証することにある。我々は、世界55カ国の160万区画の土地における17種類の作物の生産性を収録した新たな農業データを用いた。重要なのは、このデータが各区画で実際に生育している作物だけではなく、すべての作物の生産性の情報を収録していることである。経済活動の相対的な生産性の差異に関するこの直接的な情報は、リカード比較優位論によって予測される生産を計算することを初めて可能にした。現実世界の様々な事物を捨象しているにも関わらず、リカード比較優位論は、少なくとも我々の分析目的に関する限り、有意な説明力を該当データにおいて持つことが分かった。


MITニュースの記事によると、そのデータは国際連合食糧農業機関(FAO)が構築したものとのことである。また、得られた相関係数は0.212(誤差範囲0.057)だったとの由。


同記事では、1950〜60年代にも比較優位論の検証の試みは存在し、最近も19世紀の日本を題材にした研究がなされたが(cf. ここ)、「存在しないデータ(=選択されなかった生産のデータ)」の問題を克服したのは今回が初めてではないか、という著者の一人ドナルドソンの言葉を紹介している。


同時に、この研究の解釈に関しては以下の3つの留保条件がある、とも記事では書いている。

  1. 農業生産性は純粋に環境だけでは決まらない。技術的なノウハウや道具の利用可能性も影響する。
  2. 相関が完全ではないことは、国際貿易においても比較優位以外の要因が結果を左右することを示唆している。
  3. 生産性の評価は農学者が推計したものであり、それが間違っていたら結果も違ってくる。

このうちの最初の2つは別の経済学者ハーバードのPol Antras)が示したものであるが、著者たちも(上の要旨で「all of the real-world considerations from which this theory abstracts」と述べている通り)そのことは認識しており、論文中でそれらの要因も説明しようとしたが、そちらは不首尾に終わったとの由。また、3つ目の留保条件は著者たち自身が示したものだという。

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