Eminem「Recovery」

 エミネムの新作「Recovery」、先行シングルの「Not Afraid」を聴いた瞬間に自分の中ではヒットだったので、ネットで商品の詳細を見ると今までのエミネムのジャケットとは違う雰囲気の写真で2度驚いたわけなんですが、聞いてみた感想としてはエミネムの代表作となるのは間違いないアルバムであると思います。
 エミネムはこれまで、常に全方位で外部に戦いを挑んできましたが、その反動として薬物中毒に陥るという結果を招いた流れがあったんですが、しかし、そこからいかにしてもう一度復帰しようともがき苦しんだ結果をこれまでのエミネム以上に(これまでも、聞く側が苦しくなるほどの内容でしたが)赤裸々に告白しています。自分自身を究極まで見つめなおした結果として、自分自身を素直に認めるという厳しいながらも、「Recovery」というタイトルに結びついたのだと感じる、感動的で非常に勇気づけられる、まさにエミネムの新たな扉を開いた作品となっています。
 ちなみに、前作「Relapse」は薬物中毒からの復帰の状況が伝わってくるアルバムとしてよく出来ていたと思うんですが、エミネム本人は「失敗作だった」と語っています。しかし、この「Recovery」は前作「Relapse」を聴いた上で聞くことを強くオススメします。

博覧会の政治学〜まなざしの近代〜 (著)吉見俊哉 (出版社)講談社学術文庫

 政治学とタイトルには入っていますが、実際には、博覧会を通じた暗喩がいかに世間大衆に影響を与えてきたのかを客観的にまざまざと見せ付けられる内容となっています。
 興味深いのは、海外の万博(1900年代のパリ万博を代表する万国博)において、帝国主義的な内容が極めて密接に展示されていたこと。例えば、植民地の現地の人を囲いの中で生活させるいわば「人間動物園」的なことが堂々と行われていた点。日本においては、内国博覧会からものを「消費する」という視点が生まれやがては百貨店の誕生へとつながっていく点(この点については、以前に読んだ「百貨店を発明した夫婦」を参照するとよりわかりやすいです。)戦後の大阪万博においてなぜあれほどまでに人が押しかけることになったのか?(具体的には、海外では既に始まっていた博覧会のテーマパーク化が遅れて日本にやってきた点および展覧会が広告塔の役目を担うようになった点、そして、イベントの後ろに広告代理店が活動するようになった点)などなど、なかなか興味深い内容となっています。
 本書を読んで、海外・国内・年代を問わず、展覧会は極めて巧妙に直接的ではないものの「暗喩」という手法を使ってメッセージを発しており、実は、当事者として会場内に訪れた観客にとっては知らず知らずのうちにイメージとして出来上がっていくまさに「視覚」を最大限に利用したショーを見ているようでありながら、その裏には明白な意図が隠されている点に注意しておく必要があることに気が付かされます。
 ひょっとすると、私自身、この「明白な意図を持ちながら眼に見えなくした極めて巧妙なショー」を見ているのかもしれないと思ったりします。やはり、立ち止まって客観的に見る眼を養う大切さを本書を読むと強く感じます。

モードとエロスと資本 (著)中野香織(出版社)集英社新書 

 タイトルからなんのこっちゃ???と思ったんですが、これが面白い!2000年代からのファッションの10年の流れを簡単に振り返ったものなんですが、古今東西関係無く2000年まではファッションは「異性」を意識したものであったのに対して、2000年以降は、「同姓からの視線」や「倫理観」というこれまでとは全く異なった価値観の提示が行われているという視点はなかなか面白いものでした。
 08年のリーマンショック以来、ファッションも大きな打撃を受けたんですが、その後に出てきたのが、1930年代を髣髴とさせるような装飾をそぎ落とすようなシンプルなファッションがファッションショーで展開されたりしているようです。読み終えて、なんだか混沌としているようですが、今は過渡期の状態なんだろうなーというのが読み終えた感想です。